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海人の刈る藻にすむ虫の我からと
音をこそなかめ世をばうらみじ

歌の意味
海人が刈り取る海藻に住む虫の名前の、われからではないが、この度のことは私自身のせいだと声をあげて泣こう。あの人との仲をけっして恨むつもりはない。
鑑賞
六十五 忍ぶることぞ

 天皇の寵愛を受けた召し使いの女がいた。女は天皇の母女御と呼ばれる方の従姉妹で禁色の着物を着ることを許されていた。女は清涼殿の殿上の間に出仕していた在原氏であった男と、若い頃から知り合いであった。男は後宮への出入りが許されていた。
 男はたびたび後宮に出入りして女に逢っていた。けれど女は、こうして逢っているといつかは罪を問われ身を滅ぼすことになると言うが男は一向に気にしない。女は距離を取れば男も諦めるだろうかと思い悩んで自宅に行く。男もやがては自分の異常な恋心を恐れて、何とか感情を抑えようともがくが、ますます思いが募って切なくなるばかりだった。
 天皇は容貌が美しく、仏の名前をはっきりと銘じて、すばらしい声で唱えた。女は「このすばらしい天皇にお仕えせず、男との情にしばられて悲しいことよ。」と泣く。天皇は男女の仲を知り、男を都から離れた所へ追放した。女は従姉妹にあたる天皇の母君が宮中から退出させて、蔵に閉じ込めて折檻される。
 歌は女が蔵の中で泣きながら詠んだ。

 女が危惧したとおり、二人は身を滅ぼして会うことができなくなる。歌にも詠まれているとおり、女も素晴らしい天皇の寵愛を受けながら男との関係を絶つことができないほど、男のことを思っていたのだろう。

 我からは海藻に住む虫で乾くと自ずと殻が割れることから名づけられた。「割殻」と「自分自身のせい」という意味の掛け言葉。
 世は男女の仲のことをいう。

 登場する男は在原業平で女は藤原氏の家系にある二条后高子であるというのが定説である。高子は天皇の寵愛を受ける立場であり、業平も阿保親王の息子で皇族である。周りからみれば業平が天皇が気に入っている女に横から手をだしているのだから、二人の間柄はとても危ういのだろう。
作者
出典
伊勢物語

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