かきくらす心の闇にまどひにき
夢うつつとはこよひさだめよ
- 歌の意味
- 混乱して理性もなくなって何の分別もつかないぐらい取り乱してしまった。夢のことか現実のことかは今夜はっきりとさせてください。
- 鑑賞
- 六十九 君や来し
ある男がいた。男は伊勢へ狩の使い(朝廷の宴会などに供する鳥獣をとる役人、同時に地方の治政を査察した)として行った。伊勢神宮の斎宮(さいぐう、伊勢神宮に奉仕する未婚の皇女)であった人の親が「いつもの役人より心をつくしてお世話しなさい」と言った。斎宮は親の言いつけどおり丁寧に世話をした。
男が来て二日目の夜に、男が無理に「斎宮に逢いたい」という。しかし皇女と役人の立場上、人目もあるので簡単に逢えない。お互いの寝所は遠くなかったので侍女たちが寝静まった夜中の十二時ごろに男の泊まっているところへ行った。男はうれしくなって自分の寝室に連れて行って深夜三時ごろまで一緒にいたが睦言を語り合わないうちに女は帰ってしまった。
歌は女が手紙で送ってきた「君や来し我や行きけむおもほえず夢か現かねてかさめてか」を受けて、男が詠んで女に送った。
一緒に夜を過ごしたはずなのに「そんなことがあっただろうか」と女に言われた男の戸惑いと混乱の気持ちが詠まれている。下の句の「今宵定めよ」とは今夜も一緒に過ごそうと女を誘った表現に取れる。前述の女の詠んだ歌も男の返しを想定した遠回しな女からのアプローチだと考えるのは穿ちすぎか。