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五月まつ花たちばなの香をかげば
昔の人の袖の香ぞする

歌の意味
五月をまって咲き出る橘の花の香りをかぐと昔のいとしかった人の袖の香りが薫ってくるものだ。
鑑賞
六十 五月まつ  ある男がいた。宮廷勤めが忙しく誠実に妻に接することができない時期に、妻は自分のことを誠意を持って愛そうと言う人に従って地方へ行ってしまった。  元の夫であった男が宇佐神社へ派遣される役人となって出かけて行った。途中にある派遣される役人の宿泊や接待の世話をする役人の妻が、もとは自分の妻と聞いたので 「この世話役の妻である女にお酌をさせなさい。」 と言った。世話役は命令には背けず女が杯をもって差し出した。  歌は酒を注ぎに来た女を見て、酒の肴にだされた柑子蜜柑を取って詠んだ。  女はかつての夫のもとを去ったことを思い出し、やりきれない思いで出家し山に籠もって暮らした。  男はどのような気持ちでもとの妻と対面したのか。役人のとして上の立場を利用して強引に自分の前に来させたのだが、歌にあるように「昔の人」と詠むあたりに連れ戻そうなどという思いも消え失せているのだろう。昔を懐かしむ、一目見ておきたかったぐらいの気持ちだったのだろうか。
出典
伊勢物語
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