- 歌の意味
- 多くの秋を合わせても一つの春にかなうでしょうか。でも秋の紅葉も春の花も、みな散っていきます。
- 鑑賞
- 九十四 秋の夜は ある男がいた。どのような事情があったのだろうか、その男は女のところに逢いにいかなくなった。女には後に別の男ができたのだけれど、前の男とは子供がいる関係だったので、親密ではなかったが便りをして来た。 女は絵を描く人だったので前の男に頼まれ絵を描きにいっていた。しかし今の男が来ているというので約束の日から一日、二日遅れた。別れた男は情けなく思った。 歌は別れた男が皮肉をこめて詠んだ「秋の夜は春日わするるものなれやかすみにきりや千重まさるらむ」に対する女の返歌。 別れた男が詠んだ歌は、自分を春に新しい男を秋に例えて自分よりも新しい男がよいのだろうという意味で詠まれているが、女の返歌であるこの歌もその例えで詠まれている。 今の男を千人合わせても昔の男にはかなわない。「素敵だ」、「及ばない」などと言っても所詮は昔の男も今の男も私のもとを離れて去ってしまうのでしょうという意味。
- 出典
- 伊勢物語
- その他の歌