秋かけていひしながらもあらなくに
木の葉ふりしくえにこそありけれ
- 歌の意味
- けっして秋を飽きるという意味の掛詞として言ったのでもないのに、結局秋になって木の葉が降り積もり入り江が浅くなるような浅い縁だったのですね。
- 鑑賞
- 九十六 木の葉ふりしく
ある男がいた。女に何かと言い寄ることを続けて月日がたった。女も石や木ではないので情にほだされたのか心ひかれるようになった。
六月十五日ごろ女が男に心ひかれるようになったのだが、暑いさかりのせいか女の体におできが一つ二つできた。女はこれを理由に男に逢うのを秋になってからにしようと言った。
秋になり、女が男のところを行ってしまうのを心良く思わない人たちが言い立てた。そして女に兄が急に引き取るために迎えに来た。
歌は女が紅葉した楓の葉に詠んで書きしるし男のところへ届けさせた。
女が行ってしまった後は、どこでどうなっているのか分からない。男は女が幸せにならないように逆手の拍手を打って、女を呪っているということである。
女はあまりに長い間、熱心に口説かれて気持ちが動いたが本心では男のことを好きではなかったのだろう。兄が迎えに来ると、あっさりと去っていく。男は歌も返さず女を呪っているのは伊勢物語の中でも異質である。