晴るる夜の星か河辺の蛍かも
わが住むかたの海人のたく火か
- 歌の意味
- あのたくさんの明かりは、晴れた夜の星だろうか、河辺の蛍だろうか。それとも私が住むほうの漁師が夜釣りのために灯した漁火だろうか。
- 鑑賞
- 八十七 つげの小櫛も
ある男が摂津の国(現在の兵庫県)芦屋の村に領地がある縁故でそこに住んでいた。男は大した地位もなく、いい加減に宮仕えの仕事を兼務していたので衛府の次官たちが集まってきた。男の兄も衛府の長官で男の家の前の海辺を遊び歩いた。
ある時、男の兄が山の上にある布引の滝を見物しようと言うので山に登った。その滝は普通の滝とは違い長さが二十丈(約六十メートル)、広さが五丈(約十五メートル)くらいの石の表面を水がすべり落ちている。滝の途中の石の出っ張りに水が辺り蜜柑か栗くらいの大きさにはじけて飛び散る。一緒にいた人に滝の歌を詠ませた。
滝から帰る道が遠く、すでに亡くなった宮内省長官のもちよしの家の前まで来ると日が暮れてしまった。一行が泊まる男の家の方を望み見ると漁師のともし火がたくさん見える。
歌はそのともし火を見た男が詠んだ。
闇夜の海で波にゆれる明りを蛍か星の光かと比喩を用いて表現している。