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君を思ひなまなまし身を焼く時は
けぶりおほかるものにぞありける

歌の意味
あなたを思って、生々しいこの身を焼くときには、煙が多く立つものであった。
鑑賞
60 燃ゆる思ひ

 五条の御と呼ばれる女があった。男のもとへ、自分の姿を絵に描き、そこに女が燃えている様子を描いて、煙をたいそう多く描き添え、この歌を添えて贈った。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
 五条の御は、五条にちなむ呼び名を持つ女性である。相手の男については、地の文に記載がない。
 場面の時期や場所は明示されない。示されているのは、絵を描いて男のもとへ贈ったという経緯だけである。
 詠出の直接の契機は、その絵を贈ることである。歌は絵に添えられた。
 段はこの一首で終わり、男の反応も後日のことも語られない。

 「君を思ひ」の「おもひ」に、思いと、火との意が掛かる。あなたを思う心と、身を焼く火とが、この一語で重なる。恋を火にたとえる言い方は古くからあるものである。
 「なまなまし身」は、生々しい身、生の身のことである。生木が燃えれば煙が多く立つという理屈が、ここに置かれている。
 「けぶりおほかるものにぞありける」は、煙が多いものであった、の意である。「ぞ」の係りが「ける」で結ばれ、そういうものであった、という気づきの調子を作る。
 贈られた絵には、女が燃えている姿と、たいそう多く描かれた煙があった。その絵の煙の多さを、歌が理屈で説明する形になっている。絵と歌が一つに働く作りで、贈り物に歌を添える三段の柳の枝や十七段の尾花と同じ系統にあたる。

五条の御(ごでうのご)——五条にちなむ呼び名を持つ女性。
かた——姿。絵に描いた形。
おもひ——「思ひ」と「火」との掛詞。
なまなまし——生々しい。生のままである。
焼く(四段動詞)——焼く。燃やす。
けぶり——煙。
おほかり——多い。
ぞ〜ける——係り結び。強調を表す。
出典
大和物語
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