紀の国のむろのこほりにゆきながら
君とふすまのなきぞわびしき
- 歌の意味
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紀の国のむろの郡へ行きながらも、あなたと共にする夜具のないことが侘しい。
- 鑑賞
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88 むろのこほり
その同じ男が紀の国に下るときに、寒いといって着物を取りに使いを寄こしたので、女が「紀の国のむろのこほりにゆく人は風の寒さも思ひ知られじ」と詠んだ。男の返しに「紀の国のむろのこほりにゆきながら君とふすまのなきぞわびしき」とあった。以上が段の全体である。
この男は前の八十七段にも登場した兵庫允の男である。八十七段では但馬の女を残して京へのぼり、雪の歌をやりとりしている。紀の国は現在の和歌山県にあたり、むろのこほりはその中の郡の名である。
場面は同じく、紀の国へ下るころである。
詠出の直接の契機は、女から届いた「紀の国のむろのこほりにゆく人は風の寒さも思ひ知られじ」である。寒いはずがないという当てこすりに応じている。
この返歌をもって八十八段は閉じられる。地の文には歌の評もなく、贈答二首だけで段が成り立っている。
初句二句は相手の歌をそのまま受け取っている。同じ地名から歌を起こす形で、贈答として整っている。
「ゆきながら」の「ながら」が逆接で、行きながらも、と続く。暖かい所へ行くという相手の言い分を認めたうえで、それでも、とつなぐ。
「君とふすま」の「ふすま」は夜具、掛け布団のことである。寒さの原因を、土地の気候ではなく、共寝する相手のいないことに移し替えている。
結句の「なきぞわびしき」は「ぞ」の係りが「わびしき」で結ばれる形である。着物を求めた理由は寒さではなくあなたの不在だ、と答える形になっており、相手の当てこすりを受け流しながら、そのまま恋の言葉に転じている。
紀の国——現在の和歌山県にあたる。
むろのこほり——紀の国の郡の名。
ながら——〜でありながら。逆接を表す。
ふすま——夜具。掛け布団。
わびし——侘しい。心細い。
ぞ〜き——係り結び。強調を表す。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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