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むばたまのわが黒髪は白川の
みづはくむまでなりにけるかな

歌の意味
ぬばたまのように黒かった私の髪は、白川の水を汲むまでの身に成り果ててしまったことだ。
鑑賞
126 白川のみづはくむまで

 筑紫に住んでいた檜垣の御という遊女は、物事に通じた人で、世間を達者に渡ってきた。長いあいだそのように暮らしてきたが、純友の乱の巻き添えを食って、家も焼け果て、家財もみな奪われ、惨めな生活に落ちぶれていた。そうとも知らず、追討に任じられた小野好古が、彼女の住んでいたであろう所を探して、檜垣の御という人にどうにかして会いたいのだがどこに住んでいるのだろうか、と尋ねると、このあたりに住んでいたのですが、と供の者も答えるのだった。可哀想に、このような騒乱でどうなってしまったろうか、訪ねてやりたいが、などと言っていると、髪の白い老女が水を汲んでは前を通り、みすぼらしい家に入っていく。ある人が、あれが檜垣の御ですよ、と言うのだった。好古はたいへん気の毒に思って呼ばせるが、恥じ入って出てこない。ただこの歌を贈ってきた。好古は哀れに思って、着ていたあこめの着物を脱ぎ与えたのだった。
 檜垣の御は筑紫に住んでいた遊女で、物事に通じ、世間を達者に渡ってきた人である。百二十六段から百二十八段まで三段続けて登場する。小野好古は四段に野大弐として登場し、純友の追討にあたった人である。純友の乱は藤原純友による乱で、天慶年間のことである。
 場面は乱ののちの筑紫である。檜垣の御は家も財も失っていた。
 詠出の直接の契機は、好古に呼ばれても恥じて出られなかったことである。歌はその代わりとして贈られた。
 好古はこれを哀れに思い、着ていたあこめを脱いで与えた。段はその一文で閉じられる。この歌は後撰集に収められている。

 「むばたまの」は黒にかかる枕詞である。ぬばたまの実の黒さから、髪の黒さを導く。
 「わが黒髪は」で、かつての黒髪を置く。それが下の句で白へ転じる。
 「白川の」は筑紫の川の名であるが、「白」の字が黒髪との対をなす。黒から白へという色の転換が、地名によって果たされている。
 結句の「みづはくむまで」の「みづはくむ」に、水を汲むことと、老人の歯が抜けた状態をいう「みづ歯ぐむ」とが掛かる。水汲みに落ちぶれたことと、老いたこととが一語で重なる。黒髪、白川、水汲みと、色と動作を一続きにたどりながら、落魄と老いを述べた一首である。呼ばれても出られない身が、歌一首で身の上を伝えている。

筑紫(つくし)——九州の古称。
檜垣(ひがき)の御——筑紫に住んでいた遊女。
純友(すみとも)の乱——藤原純友による乱。天慶年間のこと。
小野好古(をののよしふる)——追討に任じられた人。四段に野大弐として登場する。
あこめ——装束の下に着る衣。
むばたまの——「黒」にかかる枕詞。
白川(しらかは)——筑紫の川の名。
みづはくむ——「水は汲む」と「みづ歯ぐむ(老いて歯が抜ける)」との掛詞。
出典
大和物語
その他の歌