たつた川岩根をさしてゆく水の
ゆくへも知らぬわがごとや泣く
- 歌の意味
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竜田川の岩の根をめざして流れていく水のように、行方も知らない私のように泣いているのか。
- 鑑賞
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154 ゆふつけ鳥
大和の国に住んでいた娘で、たいそうきれいな人に、都から来た男がちらと見て、あまり美しいので盗み出して抱きかかえ、馬に乗せて逃げた。女はひどく恐ろしいと思った。日が暮れると竜田山のあたりに宿を借り、泥よけを敷物の代わりに敷いて無理やり抱いたので、女は恐怖に襲われたのだった。むなしさに囚われて、男が何を言っても返事もしないで泣いているので、男が「たがみそぎゆふつけ鳥かからころもたつたの山にをりはへて泣く」と言うと、女は「たつた川岩根をさしてゆく水のゆくへも知らぬわがごとや泣く」と詠んで自殺してしまった。男はすさんだ気持ちに囚われて、女を抱きかかえて泣いたという。以上が段の全体である。
大和の国は現在の奈良県である。竜田山は大和から河内へ越える道にある山で、百四十九段にも登場する。竜田川はその近くを流れる川で、百五十一段でも詠まれている。男女いずれについても、地の文に名の記載はない。
場面は同じ宿である。男の歌を聞いたところにあたる。
詠出の直接の契機は、男から詠みかけられた「たがみそぎゆふつけ鳥かからころもたつたの山にをりはへて泣く」である。
女はこの歌を詠んで自殺してしまった。男はすさんだ気持ちに囚われ、女を抱きかかえて泣いたという。段はその一文で閉じられる。
初句は男の歌の竜田をそのまま受け、竜田川へ移している。同じ地名から歌を起こす形になる。
「岩根をさしてゆく水」は、岩の根をめざして流れていく水である。ここまでが序詞として働き、次の「ゆくへも知らぬ」を導く。「ゆく水」の「ゆく」が「ゆくへ」へ渡る。
「ゆくへも知らぬわが」は、行方も知らない私、の意である。連れ去られてどこへ行くとも分からない身を指す。
結句の「ごとや泣く」は、私のように泣いているのか、という問いである。男が鳥のことを問うたのに対し、その鳥は私のような者なのか、と応じている。相手の問いに答える形をとりながら、自分の身の上を述べた一首で、これを詠んで女は死んだ。
竜田川(たつたがは)——大和の国を流れる川。
岩根(いはね)——岩の根もと。
さす(四段動詞)——目指す。向かう。
ゆく水——流れていく水。
ゆくへ——行き先。行方。
ごと——〜のように。〜と同じく。
や——〜か。疑問を表す。
序詞(じょことば)——ある語句を導くために前に置く言葉。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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