雲居よりただもりきたる月なれば
おぼろげにては言はじとぞ思ふ
- 歌の意味
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雲間からただ漏れてきた月なのだから、いいかげんなことでは、どこから来たものかを言うまいと思う。
- 鑑賞
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巻第一 殿上闇討
忠盛の風流を伝える挿話は二つ続く。明石の浦の歌に続いて置かれるのが、この一首である。
忠盛は院の御所に最愛の女房を持ち、そこへ通っていた。あるとき、その女房の局に、端に月を描いた扇を置き忘れて帰ってしまった。他の女房たちがそれを見つけ、「これはどこから来た月の光でしょう、出どころが怪しいこと」などと言って笑い合う。忍んで通っていた相手の名を、こうしてからかい半分に暴かれかけたわけである。
その場で女房が詠み返したのがこの歌である。物語はこの返しを受けて、忠盛の女房への思いはいっそう深くなったと伝え、この女房こそ薩摩守忠度の母であったと明かす。似た者どうしという言葉のとおり、忠盛が風流を解する人であったから、この女房もまた優れていたのだ、と結ばれる。
「ただもり」に「ただ漏り」と「忠盛」を掛ける。雲間からただ漏れてくる月、という景のなかに、恋人の名前をそのまま埋め込んだ形である。
「雲居」は空と宮中の両方を指し、「おぼろげ」は月の朧と、いいかげんという意味の両方に働く。問われたのは扇の出どころだが、答えは月の出どころとして返されている。名を明かさずに、しかも掛詞では明かしてしまっているという二重性が、この歌の面白さである。
からかいをそのまま歌に仕立てて切り返す機知が示されており、直前の忠盛の歌と対になっている。詠み手が忠度の母であるという一文が添えられることで、巻第七「忠度都落」で歌に生きる忠度の血筋が、ここで先に示されることにもなる。
雲居……空。また宮中。
ただもり……「ただ漏り(来る)」に「忠盛」を掛ける。
おぼろげ……月の朧なさま。また、いいかげんなさま。
言はじとぞ思ふ……言うまいと思う。
局……宮中や御所で女房に与えられた部屋。
仙洞……上皇や法皇の御所。
つまに月いだしたる扇……端に月を描き出した扇。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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