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うきふしに沈みもやらでかわ竹の
世にためしなき名をや流さん

歌の意味
つらい節目に沈みきってしまうこともできず、川辺の竹のように、この世に前例のない浮き名を流すことになるのだろうか。
鑑賞
巻第一 二代の后

 平家の権勢が伸びてゆく一方で、皇室の内部にも不穏な空気が流れていた。鳥羽院の崩御ののち、二条天皇は父である後白河上皇の意向にことごとく背くようになる。なかでも世間を驚かせたのが、先々代の近衛天皇の后であった太皇太后宮多子を、自分の后として迎えようとした一件である。
 多子は大炊御門の右大臣公能の娘で、天下第一の美人と評判の女性だった。近衛天皇に先立たれてのちは宮中を離れ、近衛河原の御所でひっそりと暮らしていた。そこへ二条天皇が入内の宣旨を下す。一人の女性が二代の帝の后となるのは前例がなく、公卿たちは反対したが、天皇は聞き入れなかった。
 多子は、近衛帝を失ったあのとき、同じ野原の露と消えるか出家するかしていれば、こうしてつらい話を聞かずに済んだのに、と嘆く。父の公能は、勅命が下った以上は従うほかないと説き、もし皇子が生まれればお前は国母、自分は外祖父になれるのだと言い添えた。父の本心を知って、多子の憂いはいっそう深まる。そのころ、何ということもない手習いのついでに書きつけられたのがこの一首である。
 この歌の心境は世間にも伝わり、人々はそっと同情を寄せたという。入内の日、多子はなかなか家を出ようとせず、父の右大臣に無理やり車に乗せられて宮中へ入った。内裏の様子は近衛帝が在世した当時と少しも変わらず、それがかえって涙を誘った。

 「うきふしに沈みもやらでかわ竹の」までが、下の「世」を導き出す序詞になっている。
 「ふし」は竹の節と、つらい出来事を意味する「憂き節」との掛詞。「世」は竹の節と節のあいだを指す「よ」と、世間の「世」との掛詞。さらに「流す」は川の縁語で、川辺の竹という一つの情景のなかに、竹

世間の三つが重ね合わされている。
 川べりの竹は、水に流されもせず、かといって沈みきることもできず、ただ半端に水にさらされ続ける。近衛帝に殉じることも出家することもできず、二代の后という前代未聞の立場に置かれた自分の姿が、そこに正確に重なる。技巧を凝らした一首だが、技巧が嘆きを冷たくしていない。

うきふし……つらい出来事。「憂き節」に竹の「節」を掛ける。
沈みもやらで……沈みきってしまうこともできないで。
かわ竹……川辺に生えている竹。「河竹」。
世……世間の意に、竹の節と節のあいだを指す「よ」を掛ける。
ためしなき……前例のない。
名を流す……浮き名を世間に広める。「流す」は川の縁語。
入内……天皇の后として宮中に入ること。
太皇太后宮……先々代の天皇の后に与えられる称号。
国母……天皇の生母。
手習い……気の向くままに文字や歌を書きつけること。
出典
平家物語
その他の歌