たちかへるなごりもありの浦なれば
神もめぐみをかくる白浪
- 歌の意味
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立ち帰るにも名残がある、その名も有の浦なのだから、神も恵みをかけて、こうして白波をかけてくださるのだろう。
- 鑑賞
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巻第四 還御
三月二十九日、上皇は御舟を飾り立てて還御されることになった。ところが風が激しかったので、舟を漕ぎもどし、厳島のうちの有の浦にお留まりになる。
足止めされたその場で、上皇は「大明神の御名残を惜しんで、歌を仕れ」と仰せになった。これに応じて隆房少将が詠んだのが、この一首である。
夜半ごろから波も静かになり、風もおさまったので、御舟を漕ぎ出して、その日は備後国の敷名の泊に着かれた。この所には、かつて後白河法皇が御幸された折に国司藤原為成が造った御所があり、入道相国が休憩所として整えていたが、上皇はそこへはお上がりにならなかった。
出発できないという不都合を、神が引き止めてくださっているのだと読み替えている。上皇が出した「名残を惜しんで詠め」という題にそのまま応じつつ、風で足止めされた事実そのものを、名残の証拠として使った。
技法は二重の掛詞である。「有の浦」の「あり」に「名残もあり」を掛け、「めぐみをかくる」の「かくる」に、白波が懸かるを掛ける。地名と天候と神意という三つのものが、二つの掛詞で一首に収まっている。座興として即座に詠まれた歌でありながら、どこにも破綻がない。
なお隆房は清盛の娘婿にあたり、巻第六「小督」では小督のもとに通う色好みの少将として登場する。歌をよくする人物として、平家物語のなかに二度姿を見せることになる。
たちかへる……帰る。「立つ」は波の縁語でもある。
なごり……名残。
有の浦……厳島の船着き場。「あり」に「名残もあり」を掛ける。
めぐみをかくる……恵みをかける。「かかる」は白波の縁語。
白浪……白く砕ける波。
大明神……厳島明神。
隆房少将……藤原隆房。清盛の娘婿。実際には少将ではなく中将。
敷名の泊……備後国の港。現在の広島県福山市沼隈町。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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