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昇るべきたよりなき身は木の下に
しいを拾いて世をわたるかな

歌の意味
昇るための手だてのない身は、木の下でしいの実を拾って、この世を渡っていくばかりだ。
鑑賞
巻第四 鵺

 前の一首によって昇殿を許された頼政は、正四位下でしばらくあったが、なお三位を心にかけて、この一首を詠んだ。そしてついに三位に叙され、やがて出家して源三位入道頼政と名乗った。この年、七十五である。
 物語はこれに続けて、頼政一期の高名として鵺退治を語る。仁平のころ、近衛院の御在位のとき、主上が夜ごと怯えられることがあった。有験の高僧貴僧に大法秘法を修させても効き目がない。御悩は丑の刻ばかりで、東三条の森の方から黒雲が一叢立ち来て御殿の上を覆うと、必ず怯えられた。先例に任せて武士に警護させることとなり、源平両家の中から頼政が選ばれる。頼政は闇の中でまず大鏑を射上げ、驚いた怪物の声を頼りに二の矢を射て、これを射落とした。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎、鳴く声は鵺に似ていたという。褒美に御衣を賜る折には、公卿の発句に頼政が付けるという連歌のやりとりがあり、後年の二度目の折にも同じことがあった。
 「弓矢取っても並びなき上、歌道にも勝れたり」と、君も臣も感じ入られた。しかし物語は、その人が「よしなき謀反起こいて、宮をも失ひ参らせ、我が身も子孫も滅びぬるこそうたてけれ」と、突き放して章段を閉じる。

 「しい」に「椎」と「四位」を掛ける。木の下で椎の実を拾うという田舎びた景に、正四位下のまま留め置かれている身の上を重ねた。
 「昇る」も、木に昇るのと位が昇るのと、両方に働いている。木に昇れないから下で拾うしかないという景と、位が上がらないから四位のままでいるしかないという訴えとが、完全に重なる。
 前の一首が抑制された述懐であったのに対し、こちらはやや戯れに寄っている。しかし言っていることは同じで、昇れない、という一点にある。二首とも遠回しでありながら要求は明確で、そしてどちらも通った。
 巻第四はこの二首の後に鵺退治の武勇伝を置いて頼政の人物像を完成させ、そのうえで、そのすべてが謀反によって失われたと突き放す。武と歌の両方に秀でた人物の造形が、そのまま滅びの重さを測る物差しとして働いている。

昇るべき……昇るための。木にも位にもかかる。
たより……手だて。よりどころ。
木の下……木のもと。
しい……椎の実。「四位」を掛ける。
世をわたる……世を過ごす。生きていく。
正下四位……正四位下。
三位……従三位。公卿の位。
源三位入道……三位に叙されて出家した頼政の称。
鵺……トラツグミの古名。ここでは怪物の名。
大鏑……音を出す大きな鏑矢。
出典
平家物語
その他の歌