咲き出ずるはなの都をふり棄てて
風ふくはらの末ぞあやうき
- 歌の意味
-
咲き誇る花の都を振り捨てて、風の吹く原へ移る、その行く末が危ういことだ。
- 鑑賞
-
巻第五 都うつり
旧都の内裏の柱に書きつけられていた二首のうちの、二首目である。
かつての京は、鎮守がこの地を安泰に守り、南北には霊験あらたかな寺々が甍を並べ、五畿七道へ通じる八達の路が開けて交通の要衝であり、百姓万民が心を安んじて生業にはげむことのできる土地であった。それが半年と経たぬうちに廃墟になろうとしている。
新都は、北は山々に沿って高く、南は海が近くて低い。波の音は常にやかましく、潮風の激しい所である。高倉上皇はいつとなく御病気がちになられ、この年の十二月には、諸寺諸社の訴えもあって、にわかに都帰りとなる。
「風ふくはら」に「福原」を掛ける。掛詞は一つだけで、そのぶん構図がはっきりしている。
骨格は「花の都」と「風吹く原」の対比である。咲いている花を捨てて、風の吹きすさぶ野原へ行く。花は風に散るものだから、自分から風の原へ向かうというのは、みずから滅びに向かうことにほかならない。地名の音を利用しながら、そこに移ることの意味を言い当てている。
「末ぞあやうき」は行く末が危ういということである。この一首が書かれた治承四年から、平家の都落ちまでは三年しかない。
前の一首が時間を軸にしていたのに対し、こちらは場所を軸にする。四百年という時と、都と原という所と、二つの側面から遷都を批判した形になっている。名も伝わらない二人が、一本の柱に並べて書いた。
咲き出づる……咲き始める。咲き誇る。
花の都……華やかな都。平安京。
ふり棄てて……振り捨てて。
風ふくはら……風の吹く原。「福原」を掛ける。
末……行く末。将来。
あやうき……危うい。
五畿七道……畿内五国と七つの街道。全国を指す。
甍……屋根の棟。
- 出典
-
平家物語
- その他の歌
-