富士川のせぜの岩越す水よりも
はやくも落つる伊勢平氏かな
- 歌の意味
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富士川の瀬々の岩を越えていく水よりも、なんと早く落ちていく伊勢平氏であることよ。
- 鑑賞
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巻第五 五節之沙汰
富士川の敗走を嘲る落書の二首目である。今度は合戦の場となった川の名を、そのまま詠み込んだ。
岩を越えて流れ下る早瀬の水を基準に置き、それより速いと言う。「落つる」は水が落ちるのと、軍勢が落ち延びるのとを掛けている。合戦の場所と敗走の速さが、一つの動詞で結ばれる。
効いているのは「伊勢平氏」という呼び方である。太政大臣を出し、娘を后に立て、一門で六十余州の半ばを知行した一門を、伊勢の在地武士の呼び名で呼び直している。これは巻第一「殿上闇討」で、忠盛の昇殿を妬んだ公卿たちが「伊勢平氏はすがめなりけり」と囃した、あの呼び名にほかならない。栄華を極めて数十年、落書は一門を出発点の名前へ引き戻している。
巻第四の「伊勢武者はみなひをどしの鎧着て宇治の網代にかかりぬるかな」とも呼応する。あちらは宇治川で溺れた伊勢武者、こちらは富士川から逃げた伊勢平氏。川と伊勢者を組み合わせて嘲る型が、二巻にわたって続いている。平家の凋落は、まず川で、そして匿名の歌によって記録された。
瀬々……あちこちの浅瀬。
岩越す水……岩を越えて流れる水。
はやくも……早くも。なんと早く。
落つる……水が落ちる意に、落ち延びる意を掛ける。
伊勢平氏……伊勢国を本拠とした平氏。平家の旧称。
すがめ……斜視。巻第一で忠盛を囃した言葉。
落書……匿名で書き捨てる風刺の文書。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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