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ただきよはにげの馬にぞ乗りてげる
上総しりがいかけてかいなし

歌の意味
忠清は逃げの馬に乗ってしまった。上総は尻繋をかけても甲斐がない。
鑑賞
巻第五 五節之沙汰

 忠清を名指しした落書の二首目であり、富士川の敗走を嘲る四首の最後にあたる。
 この四首を並べたところで、章段は福原の新都の話へ移る。十一月十三日、福原に内裏が造られて主上が遷られたが、新都には大極殿も清暑堂も豊楽院もないので、即位の年に行われるべき大嘗会は行えず、今年は新嘗会と五節ばかりを行うことになった。その新嘗の祭でさえ、結局は旧都の神祇官で遂げられている。

 「にげ」に「逃げ」と「鹿毛」を掛ける。鹿毛は馬の毛色である。乗ったのは鹿毛の馬か、それとも逃げの馬か、と読ませる。
 「しりがい」は馬具の尻繋で、鞍が前へずれないように馬の尻へ回す紐である。前へ進むのを支えるための道具だから、逃げるばかりの馬につけても甲斐がない。「かいなし」は甲斐なしで、鞦の縁で「掻い」の音も響いている。
 馬具の名前だけで一首を組み立てており、前の「ひらやなる」が家屋の部材だけで組み立てられていたのと、まったく同じ趣向である。武士を、武具と馬具の言葉だけで語り尽くしてしまう。人としての言葉を一つも与えないことが、この落書群に共通する嘲りの方法になっている。
 巻第五はこの四首のあと、「都帰」で福原からの慌ただしい還都を、「奈良炎上」で重衡による南都焼討を語って閉じる。遊女の笑い声と落書の機知のあとに、大仏殿で千七百余人が焼け死ぬ場面が来る。巻の後半は、笑いから焼亡へ一気に落ちていく。

にげ……「逃げ」に馬の毛色「鹿毛」を掛ける。
乗りてげる……乗ってしまった。
上総……上総守忠清。
しりがい……尻繋。鞍を固定するため馬の尻に回す紐。
かいなし……甲斐がない。
大嘗会……天皇が即位の年に行う大規模な新嘗の祭。
新嘗会……天皇が新穀を神に供える祭。
五節……新嘗会に伴って行われる舞の行事。
神祇官……朝廷の祭祀をつかさどる役所。
出典
平家物語
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