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呉竹の筧の水はかわれども
猶すみあかぬ宮の内かな

歌の意味
呉竹の筧を流れる水は入れ替わってしまうけれども、それでもなお、住み飽きることのないこの宮の内であることよ。
鑑賞
巻第七 経正都落

 仁和寺御室から「あかずして別るる君が名残をば」の一首を賜わった経正が、その場で返した歌である。
 幼少のころ童としてこの御所に仕え、青山の琵琶を賜わり、ここで音楽を学んだ。その場所へ、鎧を脱いで戻ってきて、琵琶を返し、歌を返す。この後、経正は御室のもとを辞して西国へ落ちてゆき、巻第九「一二之懸」の直後に一の谷で討たれることになる。

 「呉竹の筧」は、竹を割って作った樋である。水は絶えず流れて入れ替わり、同じ水は二度とそこにない。
 その水を、変わってゆくものの代表として置いた。人も世も、筧の水のように移り変わる。それでも変わらないものが一つある、それがこの御所であり、ここで過ごした日々である——という組み立てになっている。
 眼目は「すみあかぬ」で、水が澄むという意味と、そこに住むという意味とを掛けている。筧の水が澄んでいることと、この宮に住み飽きないこととが、一語で重なる。前の御室の歌が「あかずして」と始まったのを、「すみあかぬ」で受けており、贈答歌としての言葉の受け渡しがきちんと行われている。
 変わるものとして水を出し、変わらないものとして場所を出す。しかし現実には、変わらないはずのその場所から、経正はいま去ろうとしている。歌が言っていることと、歌が詠まれている状況とが、正面から食い違う。その食い違いを言葉にしないところに、この一首の抑制がある。

呉竹……葉の細かい竹の一種。
筧……竹や木を割って作り、水を引く樋。
かはれども……入れ替わるけれども。
すみあかぬ……住み飽きない。「水が澄む」を掛ける。
宮の内……御所の中。
青山……唐から伝来した名器の琵琶。
御室……仁和寺の門跡。ここでは守覚法親王。
童……貴人のもとに仕える少年。
出典
平家物語
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