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旅衣よなよな袖をかた敷きて
思えばわれは遠くゆきなん

歌の意味
旅衣の袖を夜ごと独り敷いて寝ながら、思えば私は遠くへ行ってしまうのだろう。
鑑賞
巻第七 経正都落

 行慶法印の歌に応じて経正が返した一首であり、この章段の四首の最後にあたる。
 これを詠み終えると、経正は御室のもとを辞して門を出た。門前に控えていた侍たちと合流し、西国へ落ちてゆく一門に追いつくことになる。返された青山の琵琶は御所に残り、経正は二度とそこへ戻らなかった。

 「袖をかた敷きて」は、自分の袖だけを敷いて独り寝することをいう。二人で寝るときは互いの袖を敷き交わすものだから、片敷くというだけで独りであることが示される。恋の歌に多く用いられる言い方である。
 その言い方を、経正は戦へ向かう自分に使った。相手のいない独り寝が、これから毎晩続く。「よなよな」がその反復を表している。
 下の句の「遠くゆきなん」は、地理的に遠くへ行くことであると同時に、二度と戻らないことでもある。前の行慶の歌が「花は残らじ」と死を予告していたのを受けて、経正は自分の死をはっきりとは言わず、「遠くゆきなん」と言い替えた。予告を受け止めながら、言葉としては旅の話にとどめている。
 四首を並べて読むと、御室が名残を包み、経正が変わらぬものを言い、行慶が散る花を言い、経正が遠く行くと言う。琵琶を返すという一つの行為をめぐって、留まる側と去る側が二度ずつ言葉を交わし、そこで別れが完結する。

旅衣……旅に着る衣。
よなよな……夜ごとに。
袖をかた敷く……自分の袖だけを敷いて独り寝する。
思へば……考えてみると。
遠くゆきなん……遠くへ行ってしまうのだろう。
御室……仁和寺の門跡。
青山……唐から伝来した名器の琵琶。
一の谷……摂津国の地。経正はここで討たれる。
出典
平家物語
その他の歌