はかなしな主は雲井に別るれば
宿はけぶりと立ちのぼるかな
- 歌の意味
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はかないことだ。主人が雲居の彼方へ別れてゆけば、その宿は煙となって立ちのぼることだ。
- 鑑賞
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巻第七 一門都落
維盛をはじめとする小松殿の兄弟六人が、千騎ばかりで一門に追いついたのは淀の六田河原の近くだった。今まで何をしておいででしたと問う宗盛に、維盛は、幼い和子たちがなかなか離さぬのでなだめておりますうちに遅れました、と答える。ではなぜお連れにならなかったのかと重ねて問われ、つらつら思うに世の行末もあまり頼もしいとは思われず、と暗然として言葉を濁した。
この日、都を落ちてゆく面々は、前内大臣宗盛、平大納言時忠、平中納言教盛、新中納言知盛、修理大夫経盛、右衛門督清宗、本三位中将重衡、小松三位中将維盛、新三位中将資盛、越前三位通盛、内蔵頭信基、讃岐中将時実、左中将清経、小松少将有盛、丹後侍従忠房、皇后宮亮経正、左馬頭行盛、薩摩守忠度、能登守教経、武蔵守知章、備中守師盛、淡路守清房、尾張守清定、若狭守経俊、兵部少輔雅明、蔵人大夫成盛、大夫敦盛、二位僧都全真、法勝寺執行能円、中納言律師仲快、経誦坊阿闍梨融円——その勢ざっと七千騎で、東国北国の戦でようやく一命を長らえた人たちであった。
平大納言時忠は、主上の御輿を山崎の関戸院に据えると、男山を伏し拝み、南無帰命頂礼八幡大菩薩、願わくは君をはじめ我ら一同、再び都に帰れますように、と祈った。出てきたばかりの都の空を眺めやると、空はぼうっとかすんで、ところどころに煙が一すじ二すじ立ちのぼるのが見えるだけである。一門が自ら火をかけた邸の煙だった。
教盛は思わずこの一首を口ずさんだ。
「雲井」は空であり、宮中でもある。ここでは都を遠く離れることをいう。
主人が去れば宿は焼ける、という因果を述べているが、実際には焼いたのは自分たちである。敵に使わせぬために火をかけた。その火が、遠くから見れば、ただ立ちのぼる煙になっている。
「はかなしな」という嘆きから始めているのは、その煙を他人事のように眺めている自分に気づいたからだろう。人が去れば家は消える——それは世の常であって、誰のせいでもない。自らの手で焼いた家を、世の常として眺めることによって、かろうじて堪えている。
巻第一の冒頭で「驕れる人も久しからず」と語り出された物語が、六代の栄華を経て、ここで一門の邸を煙に変える。「宿は煙と立ちのぼる」の一句は、祇園精舎の鐘の声から続く主題を、目に見える形で示している。
はかなしな……はかないことだ。
主……あるじ。家の持ち主。
雲井……空。また宮中。ここでは遠く離れることをいう。
宿……家。邸宅。
けぶり……煙。
関戸院……山崎にあった宿館。
男山……石清水八幡宮のある山。
六田河原……淀の近くの河原。
平中納言教盛……平教盛。清盛の弟。門脇中納言とも。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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