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故郷を焼野の原とかえりみて
末もけぶりの浪路をぞ行く

歌の意味
故郷を焼野の原と見返しながら、行く末もまた煙のような、波の路を行くことだ。
鑑賞
巻第七 一門都落

 教盛が「はかなしな主は雲井に別るれば」と口ずさんだのに続けて、修理大夫経盛が詠んだ一首である。この二首をもって、一門の都落ちの場面は閉じられる。
 このあと、肥後守貞能が淀川の川尻に源氏が来たと聞いて五百余騎を引き連れて出たが、間違いとわかって引き返す途中、宇度野で都落ちの一行に出会う。貞能は宗盛に、西国へ行けば落人としてあちこちで討ち散らされる、都におられるほうがよいと諫めるが、宗盛は聞き入れず、貞能は暇を賜わって都へ帰っていった。

 「焼野の原」は焼け野原である。振り返れば故郷が焼けている。
 「末も」がこの一首の要で、後ろを見れば煙、これから行く先もまた煙のような波路だ、と言う。過去と未来の両方が煙で塞がれている。「浪路」は海路のことで、平家はこれから西海を漂うことになる。煙と波、どちらも形の定まらないもので、その二つのあいだに一門が挟まれている。
 教盛の一首が「宿は煙と立ちのぼる」と、後ろの一点だけを見ていたのに対して、経盛は後ろと前の両方を見た。二首を並べると、振り返る歌と、その先を見る歌になっている。都落ちの場面に二首が必要だった理由が、ここにある。
 なお経盛は経正と敦盛の父である。琵琶を仁和寺に返してきた経正も、この列のなかにいる。父は煙の行く末を詠み、子は翌年の一の谷で兄弟ともに討たれることになる。

故郷……生まれ育った土地。ここでは都。
焼野の原……焼けて野原のようになった土地。
かへりみて……振り返って見て。
末……行く末。将来。
けぶりの浪路……煙のようにはかない海路。
修理大夫経盛……平経盛。清盛の弟。経正、敦盛の父。
肥後守貞能……平貞能。平家の重臣。
宇度野……山城国の地名。
落人……戦に敗れて逃げる者。
出典
平家物語
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