恋しとよ去年の今宵の夜もすがら
契りし人の思い出でられて
- 歌の意味
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恋しいことだ。去年の今宵、夜通し語り合って約束を交わしたあの人が、思い出されて。
- 鑑賞
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巻第八 緒環
九月十三夜の月に寄せて詠まれた三首のうち、二首目にあたる。忠度の歌に続いて、修理大夫経盛が詠んだ。
経盛は清盛の弟で、経正と敦盛の父である。巻第七「一門都落」では、都を振り返って「故郷を焼野の原とかえりみて末もけぶりの浪路をぞ行く」と詠んだ。あのときは煙に塞がれた前後を詠み、今度は去年の夜を詠んでいる。
忠度が「友」を詠んだのに対して、経盛は「契りし人」を詠む。契りは約束であり、男女の契りでもある。同じ夜を材料にしながら、一首目が友情、二首目が恋へ振り分けられている。
「夜もすがら」は夜通しである。去年の十三夜は、一晩じゅう語り明かした夜だった。その具体性が、今年の一人きりの夜と対比される。月は同じでも、隣にいる人がいない。
「思ひ出でられて」の「られ」は自発の助動詞で、思い出そうとして思い出すのではなく、ひとりでに思い出されてしまうことを表す。抗いようがない、という含みがある。忠度の歌が「思ひ出づらん」と相手の側を推し量ったのに対し、経盛は自分の側に起きていることを述べる。二首を並べると、向こうを思う歌と、自ずと思い出される歌になっている。
なお経盛の子である経正と敦盛は、この翌年の一の谷で、兄弟ともに討たれる。父が九州で去年の夜を懐かしんでいる時点で、息子たちの死までは半年もない。
恋しとよ……恋しいことだ。
去年の今宵……去年の同じ夜。九月十三夜。
夜もすがら……一晩じゅう。夜通し。
契りし人……約束を交わした人。深い間柄の相手。
思ひ出でられて……自然と思い出されて。
修理大夫経盛……平経盛。清盛の弟。経正、敦盛の父。
自発……動作が自然に起こることを表す助動詞の用法。
一の谷……摂津国の地。経正、敦盛が討たれた。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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