分けて来し野辺の露とも消えずして
思わぬ里の月を見るかな
- 歌の意味
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分け入ってきた野辺の露と共に消えることもなく、思いもかけぬ里で月を見ていることだ。
- 鑑賞
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巻第八 緒環
九月十三夜の三首の最後にあたる。忠度、経盛に続いて、皇后宮亮経正が詠んだ。
経正はこの巻の父経盛の子であり、巻第七「経正都落」で仁和寺御室に琵琶の青山を返し、四首の贈答を交わして西国へ下った人である。都を出るときには「旅衣よなよな袖をかた敷きて思えばわれは遠くゆきなん」と詠んだ。その「遠く」が、いまこの九州の月の下として実現している。
「野辺の露」は道中に踏み分けてきた草の露であり、同時にはかなく消えるものの喩えである。露と共に消えてもよかった、いや消えるはずだった——という含みが「消えずして」に込められている。生き延びてしまったことへの、かすかな悔いがある。
「思はぬ里」は、思いもかけなかった土地である。都を出るときには行く先など考えていなかった。それがいま、名も知らぬ九州の里で月を見ている。
三首を並べて読むと、忠度は都の友を思い、経盛は去年の夜を思い、経正は自分がここにいることを思っている。過去へ、過去へと向かった二首のあとに、現在地を確かめる一首が置かれる。そして確かめた結果が、思いもかけない場所だった。
巻第七の「旅衣」の歌と対にして読むと、この二首で経正の都落ちが完結する。都を出る夜に「遠くゆきなん」と言い、遠く来てしまってから「思はぬ里の月を見る」と言う。予告と確認である。経正は翌年、一の谷で討たれた。
分けて来し……草を分けて進んできた。
野辺の露……野原の草に置く露。はかないものの喩え。
消えずして……消えることなく。
思はぬ里……思いもかけなかった土地。
月を見るかな……月を見ていることだ。
皇后宮亮経正……平経正。経盛の子、敦盛の兄。琵琶の名手。
青山……唐から伝来した名器の琵琶。巻第七で仁和寺に返した。
一の谷……摂津国の地。経正が討たれた。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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