もののふの取りつたえたる梓弓
引いては人のかえすものかは
- 歌の意味
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武士が代々受け継いできた梓弓は、引くものであって、引き返すようなものではない。
- 鑑賞
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巻第九 二度の懸
生田の森の合戦である。河原太郎、次郎の兄弟が城内へ先駆けして討ち死にした。二人の首を大将軍の新中納言知盛に見せると、天晴れな剛の者、こういう武士こそ一騎当千のものであろう、惜しい奴を失ったものだと感心した。
河原の下郎たちが駆け出して、河原殿兄弟がただいま城内へ先駆けして討ち死になされましたぞ、と叫ぶ。これを聞いた梶原平三景時は、河原が討たれたか、わが党の不覚のためなるぞ、寄せる時は今ぞ、者ども駆け入って攻めよ、と大声で下知した。梶原の五百余騎は生田の森の逆茂木を取りのけさせ、どっと叫んで城内へ攻めこんだ。
このなかに梶原の次男平次景高がいたが、ただ一騎、先へ先へと進んでいく。父の平三は使者を追わせて、後陣の勢が続かぬうちに先駆けした者に勧賞なしと大将軍から仰せがあったぞ、と言わせた。平次はしばらく駒を止めて、この一首を詠むと、そのまま群がる敵のなかへ駆け込んでいった。
父の平三は、平次を討たすな、者ども平次を討たすな、続けよと叫び続ける。平次の兄の源太、弟の三郎が平次を追い、梶原勢五百余騎は大軍のなかへ一団となって疾風のごとく駆け込んでいった。
「梓弓」は弓の美称で、「引く」を導く語である。弓は引くもので、引き返すものではない、という言い方に、退却を拒む意志を重ねている。
「引いては」に、弓を引いてはという意と、引き返してはという意を掛ける。「かへす」にも、弓を返すことと引き返すことを掛けた。武具の言葉だけで、退却できない理由を組み立てている。
巻第五「五節之沙汰」の落書が、家屋の部材や馬具の名前だけで平家の武士を嘲ったのと、技法としては同じである。ただしあちらは他人を笑うために使われ、こちらは自分の行動を説明するために使われている。同じ道具立てが、嘲りにも決意にもなる。
父の制止に対する返答として歌を詠み、詠み終えるとそのまま駆け込んでいく。言葉を尽くさず、一首で済ませた。合戦の最中に詠まれた歌としては、平家物語のなかで最も短い応答である。
もののふ……武士。
取りつたへたる……代々受け継いできた。
梓弓……梓の木で作った弓。弓の美称で「引く」を導く。
引いては……弓を引いては。引き返しては。
かへす……弓を返す。引き返す。
逆茂木……枝つきの木を並べて作った防柵。
下知……命令。
勧賞……功に対する賞。
梶原平三景時……源氏方の武将。
生田の森……摂津国の地。一の谷の東の陣。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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