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ただ頼めほそ谷川のまろき橋
ふみ返しては落ちざらめやは

歌の意味
ただ頼りになさい。細い谷川の丸木橋も、幾度も踏みかかってゆけば、落ちないことがあろうか。
鑑賞
巻第九 小宰相

 門院は小宰相を招き寄せると、これは逢わぬことを恨んだお手紙ですよ、心強いのも程々になさい、もうお返事をさしあげても構わないでしょう、と言われた。そして門院自ら筆を取って、この一首を書かれたのである。
 この歌によって二人は結ばれた。しかし通盛は一の谷の合戦で湊川の川下で討たれる。身重であった小宰相は、屋島へ着こうという十四日の夜、船の中が静かになるのを待って、乳母の女房に思いを打ち明け、人目を盗んで海に身を投げた。

 通盛の歌の語をそのまま使って返している。「ほそ谷川のまろき橋」「ふみ返し」——同じ言葉を用いながら、結論だけを逆にした。
 通盛は、踏み返されて自分が落ちたと嘆いた。門院は、踏み返してかかれば落ちないことがあろうか、と返す。「落ちる」を、橋から落ちることから、相手が落ちる、すなわち靡くことへ転じているのである。何度も踏めば落ちる、通いつめれば折れる、という励ましになっている。
 贈答歌の作法としては相手の言葉を受けて返すのが基本だが、この場合、返しているのは相手でも、恋の当事者でもない第三者である。門院が小宰相に代わって筆を取り、通盛への返事とした。歌の技法だけが、身分と立場を越えて働いている。
 結果としてこの二首が二人を結び、小宰相の胎に子が宿り、そして通盛の死とともに母子ともに海に沈む。励ましの歌を書いた門院自身は、壇の浦で入水を果たせずに生き残り、灌頂巻で大原に生きることになる。三人のうち最も長く生き残ったのは、この歌を書いた人だった。

ただ頼め……ひたすら頼りにせよ。
ほそ谷川……細い谷川。
まろき橋……丸木橋。
ふみ返しては……何度も踏みかかっては。
落ちざらめやは……落ちないことがあろうか、いや落ちるだろう。
建礼門院……平徳子。清盛の娘、安徳天皇の母。
湊川……摂津国の川。
屋島……讃岐国。平家の拠点。
乳母の女房……養い育てた女房。
身重……妊娠していること。
出典
平家物語
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