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君故にわれも憂き名を流すとも
底のみくずとともになりなん

歌の意味
あなたゆえに私もまた憂き名を流すとしても、川底の水屑となって、ご一緒しよう。
鑑賞
巻第十 内裏の女房

 重衡の手紙を読んだ女房は、悲しみに言葉もなく、文をかき抱いて泣き伏していた。しばらくして自分も筆をとり、重衡に別れて辛かった二年来のことを書き、終りに一首の歌を詠んで、知時に渡した。それがこれである。

 相手の語をそのまま受けて返す、贈答歌の型を守っている。「憂き名を流す」を引き取り、私も同じように流す、と言う。
 そのうえで一段深くした。「底のみくず」——流されるだけでなく、沈んで水底の屑になろう、というのである。「みくず」は水屑で、水中に沈んだごみをいう。人が身を沈めるときの常套の語でもある。
 眼目は「ともになりなん」の「ともに」である。名誉を守ることではなく、同じ場所へ沈むことを選んでいる。重衡が「今ひとたび」と一度の逢瀬を求めたのに対して、女房は最後まで一緒だと答えた。求められたものより多く返している。
 贈答歌は本来、相手の言葉を受けて機知を返す遊びの形式である。それが、ここでは覚悟の交換になっている。技法は宮廷の恋歌のままで、中身だけが入れ替わっている。

君故に……あなたのために。あなたゆえに。
憂き名……悪い評判。
流す……「涙川」の縁語を受ける。
底……川や海の底。
みくず……水屑。水中に沈んだごみ。身を沈めることを暗示する。
ともになりなん……一緒になろう。
知時……木工右馬允知時。重衡の手紙を運んだ武士。
贈答歌……贈る歌と返す歌の一組。
出典
平家物語
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