かぎりとて立ち別るれば露の身の
君よりさきに消えぬべきかな
- 歌の意味
-
これが最後だと言って立ち別れるのだから、露のようなこの身は、あなたより先に消えてしまいそうだ。
- 鑑賞
-
巻第十 内裏の女房
重衡の歌に対する、女房の返しである。
この後は二度と逢うこともできず、文通だけは通わせていた。重衡は鎌倉へ下り、頼朝の前に引き出され、やがて千手の前と出会う。そして最後は南都の衆徒に渡され、木津川のほとりで斬られることになる。
ここでも相手の語をそのまま受けている。「かぎり」を引き取り、「露の身」を引き取った。贈答の型は最後まで守られている。
そのうえで結論だけを逆にする。重衡は自分の命が今宵限りかと言った。女房は、先に消えるのは私のほうだと返す。
これは単なる誇張ではない。相手の死を先取りして嘆くかわりに、自分が先に死ぬと言うことで、相手の死を口にしないで済ませているのである。あなたは死ぬのでしょうと言わずに、別れの悲しみを述べきった。
四首の贈答は、憂き名を流す、ともに沈む、今宵限り、私が先に消える——と進む。二度の贈答で、女房は二度とも相手より先へ出た。差し出しているのは女のほうである。
かぎりとて……これが最後だと言って。
立ち別るれば……立って別れるので。
露の身……露のようにはかない身。
君よりさきに……あなたより先に。
消えぬべき……消えてしまいそうだ。
木津川……南都のそばを流れる川。重衡の処刑地。
千手の前……鎌倉で重衡をもてなした女性。
衆徒……寺に属する僧の集団。
- 出典
-
平家物語
- その他の歌
-