我が身こそ明石の浦に旅寝せめ
おなじ浪にもやどる月かな
- 歌の意味
-
我が身こそ明石の浦に旅寝することになったけれど、その同じ波にも、やはり月は宿っていることだ。
- 鑑賞
-
巻第十一 内侍所の都入
帥佐殿の二首に続いて、大納言佐局が嘆じた一首である。歌心にうとい東国の武士たちも、さぞ昔がなつかしかろうと、女房たちの思いに同情を寄せる者が多かった。
二十五日には、内侍所と璽の御箱を迎えに、勘解由小路中納言経房以下の公卿たちが鳥羽まで出た。
なお大納言佐局は本三位中将重衡の北の方であり、この巻の末尾で、南都へ引き渡される夫と最後の対面を果たすことになる。
「明石」は「明かし」を掛けるのが常套だが、ここでは地名としてそのまま使い、「旅寝」と結んでいる。捕虜として運ばれてゆく道中を、旅寝と呼んだ。落魄を旅と言い替えることで、かろうじて言葉の品位を保っている。
眼目は下の句である。自分は落ちぶれて浦で旅寝しているが、その同じ波にも月は宿っている。月は場所を選ばない。宮中の池にも、囚われ人の泊まる浦の波にも、等しく映る。
これを慰めと取るか、そうでないと取るかで、歌の色は変わる。月が変らず映ってくれるという救いとも読めるし、月にとって自分たちの落魄など何ほどのことでもないという突き放しとも読める。「かな」の詠嘆は、どちらとも決めていない。
帥佐殿の二首が「雲の上」を持ち出して昔と今を対比したのに対し、この一首は今の波だけを見ている。三首のなかで、最も現在に近いところに立っている。
我が身こそ……我が身は。
明石の浦……播磨国の海辺。月の名所。
旅寝……旅先で夜を過ごすこと。
せめ……することになろうが。
おなじ浪……同じ波。
やどる……映る。宿る。
大納言佐局……本三位中将重衡の北の方。
内侍所……神鏡。
璽の御箱……神璽を納めた箱。
勘解由小路中納言経房……藤原経房。
- 出典
-
平家物語
- その他の歌
-