ぬぎかうる衣も今は何かせん
きょうを限りの形見と思えば
- 歌の意味
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脱ぎ替えた衣も、今となっては何になろう。今日を限りの形見だと思えば。
- 鑑賞
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巻第十一 重衡被斬
重衡の歌に対する、北の方の返しである。
この後、重衡は言った。縁あらば再び来世で契り逢おう、そなたも一つ蓮に生れるようよくよく祈っていてくれ、そろそろ日も暮れて参った、余り待たせても悪いからのう——北の方はもう少し、もう少しいて下さいませと引き止める。いや、いや、いつまでいても同じこと、余計別れが辛くなる、わしの心持も察してくれい、どうせ逃れられぬ身じゃ、一時長居すればするだけ心が乱れるだけじゃ、又来世で逢おう——心強くも言い切って、北の方の手を振り払うようにして門の外へ出たときには、目の前がぼうっとかすんで何も見えなかった。
重衡は木津川のほとりで斬られた。北の方は遺骸を引き取って日野で弔い、やがて出家して菩提を弔うことになる。
「何かせん」は、何になろうか、何にもならない、である。贈られた形見を、その場で否定している。
理由は下の句に示される。今日を限りの形見だと思えば、である。形見とは本来、残された者が長く持ち続けるものだ。しかし自分は今日限りだと思っている——つまり、自分もまもなく後を追うつもりだ、という含みになる。形見が要らないのは、それを持ち続ける自分がいないからである。
巻第十「内裏の女房」で、重衡が「逢うことも露の命ももろともにこよいばかりやかぎりなるらん」と詠んだのに対し、女房が「かぎりとて立ち別るれば露の身の君よりさきに消えぬべきかな」と返した。あの贈答とまったく同じ構えが、ここでは正妻とのあいだで繰り返される。重衡は生涯に二度、別れの歌を贈り、二度とも、相手のほうが先に死ぬと答えられている。
ぬぎかふる……脱ぎ替えた。
何かせん……何になろうか、何にもならない。
きょうを限り……今日を最後として。
形見……後に残る記念の品。
一つ蓮……同じ蓮の上に生れること。極楽で共にあること。
木津川……南都のそばを流れる川。重衡の処刑地。
日野……山城国の地。北の方の住んだ所。
菩提を弔う……死者の冥福を祈ること。
- 出典
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平家物語
- その他の歌
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