玉くしげふたとせ逢はぬ君が身を
あけながらやはあらむと思ひし
- 歌の意味
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玉櫛笥の蓋ではないが、二年も逢っていないあなたの身が、まさか緋色のままでいようとは思わなかった。
- 鑑賞
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4 玉くしげ
野大弐が、純友の騒ぎがあったとき討手の使に任じられ、少将のまま任地へ下った。朝廷への勤めもあり、四位になってもよい年に当たっていたので、正月の加階のことをたいそう知りたく思っていた。ところが京から下ってくる人もほとんどなく、尋ねてみても、四位になったと言う者もあり、なっていないと言う者もあった。確かなことをなんとかして知りたいと思っていたところへ、京の使いがあって、近江守公忠の君の文を持ってきた。急いで、うれしく思って開けて見れば、いろいろと書き連ねて、月日まで書き終えたその奧に、この歌が書かれていた。これを見て野大弐は限りなく悲しく思って泣いた。四位にならなかったという由は文の詞にはなく、ただこの歌の中にだけあったのである。
野大弐は小野好古。のちに大宰大弐となったことによる呼び名である。詠み手の源公忠は近江守を務め、三十六歌仙の一人に数えられる歌人である。
純友の騒ぎとは藤原純友による乱で、小野好古がその追討にあたったのは天慶年間のことである。場面は好古の任地で、京から遠く離れている。加階の発表は正月に行われるため、下向中の好古にはその結果が届かない。
詠出の直接の契機は、加階の結果を知らせるという用向きそのものである。公忠は文の詞では一言も触れず、末尾に歌一首を置いた。
好古はこれを読んで泣いた。段はその一文と、知らせが歌の中にしかなかったという説明で閉じられる。この歌は後撰集に収められ、そこには好古の返歌も併せて載っている。
「玉くしげ」は櫛を入れる箱で、その「蓋」から「ふたとせ」を引き出す枕詞の働きをしている。
「あけ」には、箱を開けるという意と、五位の袍の色である朱の意とが掛けられている。四位に上がれば袍の色が変わるが、変わっていないというのが歌の中身である。
「ながら」は、そのままの状態で、の意で、装束の色が前と変わっていないことを示す。結句の「やは〜む」は反語で、そのままでいようとは思わなかった、と言う。つまり、二年も逢わないあなたが、まだ緋色の装束のままだとは思わなかった、という意味になり、昇進しなかったことを一言も直接には述べずに伝えている。
悪い知らせを散文で書かず、掛詞に託して歌一首に押し込めたところに、この段の眼目がある。受け取った側がそれを読み取って泣いたという結びが、伝わったことを示している。
野大弐(やのだいに)——大宰大弐となった小野好古のこと。
討手の使——討伐のために派遣される使者。
加階賜り——位階を授けられること。
をさをさ〜ず——ほとんど〜ない。
玉くしげ——櫛を入れる箱。「ふた」「あけ」を導く語。
ふたとせ——二年。「蓋」との掛詞。
あけ——「開け」と「朱(緋色)」との掛詞。緋色は五位の袍の色。
ながら——そのままの状態で。
やは〜む——〜だろうか、いや〜ない。反語を表す。
奧(おく)——文書の末尾。書き終わったあとの部分。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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