ふるさとをかはと見つつも渡るかな
淵瀬ありとはむべもいひけり
- 歌の意味
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もとの住まいを、あれかと、また川と見ながら渡ることだ。淵と瀬があるとは、なるほどよく言ったものだ。
- 鑑賞
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10 昨日の淵
監の命婦が、堤にあった家を人に売って、粟田という所に移った。あるとき、かつての家の前を通ることがあり、そこで詠んだのがこの歌である。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
監の命婦は大和物語に繰り返し登場する女房で、八段では中務の宮との贈答が置かれ、七十一段では堤の家に住んでいたことが語られる。この段はその家を手放したあとの話にあたる。
堤は賀茂川の堤で、監の命婦がもと住んでいた場所である。移り先の粟田は京の東にあたる地である。
詠出の直接の契機は、売ってしまった旧居の前を通りかかったことである。地の文は「渡りければ」と記しており、川を渡りながらの場面として書かれている。
段はこの一首で終わり、聞き手の反応も後日のことも語られない。下の句は、古今集に見える、世の中は何が変わらぬものだろうか、飛鳥川の昨日の淵は今日は瀬になる、という読人しらずの歌を踏まえている。
「かは」に、川と、「彼は」すなわちあれは、との意味が掛けられている。売って人手に渡った家を、あれが以前の住まいかと眺めながら渡っていく場面である。
「見つつも」の「つつ」は動作の継続で、歩きながら目を離さずにいる姿を示す。「渡る」は川を渡ることをいうが、地の文の側も同じ語を用いており、歌と地の文が同じ言葉で結ばれている。
「淵瀬」は川の深い所と浅い所のことで、転じて世の移り変わりをいう。下の句は、飛鳥川の淵瀬を詠んだ古今集の歌の言い方を踏まえ、それを「むべもいひけり」と受けている。
結句は、なるほどもっともなことを言ったものだ、という受け止め方である。悲嘆に暮れるのではなく理屈で受け止めてみせる結び方に、この歌の調子がある。
堤(つつみ)——賀茂川の堤。監の命婦がもと住んでいた場所。
粟田(あはた)——京の東、白川に近い一帯の地名。
ふるさと——以前住んでいた土地。旧居。
かは——「川」と「彼は(あれは)」との掛詞。
淵瀬(ふちせ)——川の深い所と浅い所。転じて、世の移り変わり。
むべ(副詞)——なるほど。もっともなことに。
渡る(四段動詞)——川を越える。また、月日を過ごす。
つつ——〜しながら。動作の継続を表す。
けり——〜たものだなあ。詠嘆を含む。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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