古典和歌stream

数ならぬ身におく夜の白玉は
光見えさすものにぞありける

歌の意味
物の数にも入らないこの身に置く夜の白玉は、わずかに光を見せるだけのものであった。
鑑賞
15 夜の白玉

 釣殿の宮が、若狭の御という人をお召しになったが、その後は二度とお召しがなかったので、この歌を詠んで差し上げた。歌をご覧になった宮は、ああ、みごとな玉の歌詠みだこと、とおっしゃったという。段はこの一首と、その一言で閉じられる。
 若狭の御は、若狭にちなむ呼び名を持つ女性である。釣殿の宮については、釣殿に住まわれた宮という以外、地の文に記載がない。
 場面は、一度召されたのち、再びの召しがないままの時期である。
 詠出の直接の契機は、その二度目の召しがないことそのものである。歌は宮のもとへ差し上げられた。
 歌を見た宮は玉の歌詠みだと評された。歌そのものが場を動かした形で段が締めくくられており、この歌は後撰集に収められている。

 「数ならぬ身」は、取るに足らない自分、という当時の常套の言い方である。
 そこに置かれる「夜の白玉」は白露のことである。露は一夜のあいだだけ置いて朝には消える。白玉は真珠をいうが、露を美しく言う語としても用いられる。
 「光見えさすものにぞありける」は、わずかに光って見えるだけのものであった、の意。「ぞ」の係りが「ける」で結ばれ、そういうものだったのだ、という気づきの調子を作る。一度だけ召された自分の身が、ひととき光を見ただけで終わった、という含みがここにある。
 恨み言を一語も使わず、露の一粒に言いおおせている。宮が玉の歌詠みと評したのも、この言いさし方をほめたものと読める。

釣殿(つりどの)の宮——釣殿に住まわれた宮。
召す(四段動詞)——お呼びになる。ここは寝所に召すこと。
数ならぬ身——物の数にも入らない、取るに足りない身。
白玉——真珠。また、白露を美しくいった語。
おく(四段動詞)——露などが降りて留まる。
見えさす(下二段動詞)——ちらりと見える。わずかに姿を見せる。
あなおもしろ——ああ、みごとだ。ああ、すばらしい。
ぞ〜ける——係り結び。強調を表す。
出典
大和物語
その他の歌