柏木のもりの下草老いのよに
かかる思ひはあらじとぞ思ふ
- 歌の意味
-
柏木の森の下草が老いるような世になっても、そのような思いはあるまいと思う。
- 鑑賞
-
21 森の下草
良少将が兵衛の佐であったころ、監の命婦のもとに通っていた。女のもとから「柏木のもりの下草老いぬとも身をいたづらになさずもあらなむ」と言ってきたので、返しに「柏木のもりの下草老いのよにかかる思ひはあらじとぞ思ふ」と詠んだ。段はこの二首の贈答で閉じられる。
良少将は良岑の姓を持つ少将で、この段では兵衛の佐の任にあった時期のこととして語られる。兵衛の佐は兵衛府の次官にあたる。監の命婦は大和物語に繰り返し登場する女房で、八段では中務の宮と歌をやりとりし、十段では旧居の前を通って歌を詠んでいる。この段は続く二十二段にも同じ二人が現れる。
場面は前の歌と同じ、通いが続いていた時期である。
詠出の直接の契機は、監の命婦から届いた「柏木のもりの下草老いぬとも身をいたづらになさずもあらなむ」である。捨て置かないでほしいという願いに応じている。
この返歌をもって二十一段は閉じられる。地の文には歌の評もなく、贈答二首だけで段が成り立っている。
この歌は続古今集に収められている。
相手が持ち出した「柏木のもりの下草」をそのまま初句二句に置き、同じ言葉から歌を起こす。贈答歌の型として整った受け方である。
「老いのよに」は、老いる世になっても、の意で、相手の「老いぬとも」を受け直している。
「かかる思ひ」は、そのような思い、すなわち捨て置かれるのではないかという相手の心配を指す。「あらじ」の「じ」は打消の推量で、そんなことはあるまい、と否定する。
結句の「とぞ思ふ」は、「ぞ」の係りが「思ふ」で結ばれる形で、そう思う、という判断を押し出す。相手の不安を正面から打ち消す返し方で、十六段の忘れ草の贈答と同じ構えにあたる。
柏木——兵衛府の異称。
下草——木の下に生える草。
老いのよ——老いる時分。年老いた世。
かかる——このような。そのような。
あらじ——あるまい。「じ」は打消の推量。
ぞ〜思ふ——係り結び。強調を表す。
- 出典
-
大和物語
- その他の歌
-