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あだ人の頼めわたりしそめかはの
色の深さを見でやゝみなむ

歌の意味
誠意のないあなたが、ずっと期待させ続けた染革の色の深さを、とうとう見ないままで終わってしまうのだろうか。
鑑賞
22 染革の色

 その良少将が、太刀を結ぶ皮を求めたときに、監の命婦が、私のところにある、と言ったきり、いつまでも寄こさないので、この歌を詠んで贈った。すると監の命婦はたいそう褒め称えて、皮を探し求めて贈ったのだった。段はこの一首と、そのあとの顛末で閉じられる。
 良少将と監の命婦は、前の二十一段に登場した同じ二人である。二十一段では柏木の森の下草をめぐる贈答が置かれ、この段はその続きにあたる。
 場面は、少将が太刀を結ぶ皮を必要としていた時期である。命婦が持っていると言いながら、渡さないままになっている。
 詠出の直接の契機は、その皮がいつまでも届かないことである。歌はその催促として贈られた。
 歌を受け取った命婦はこれをたいそう褒め、皮を探し求めて贈った。歌一首が物を動かした形で段が締めくくられている。この歌は続後拾遺集に収められている。

 「あだ人」は、誠意のない人、あてにならない人の意で、相手をそう呼びかけて始める。
 「頼めわたりし」は、期待させ続けた、の意である。「わたる」が動作の継続を示し、長く待たされたことを言う。
 「そめかは」は染めた革のことだが、川の名の「染川」の音が重なって聞こえる。革の色の深さを言いながら、水に染まる色合いをも呼び込む言い方になっている。
 「色の深さ」は染めの濃さであると同時に、情の深さをも指す。結句の「見でやゝみなむ」は、見ないままで終わってしまうのだろうか、という疑問で、催促を直接の言葉にせず、嘆きの形に変えている。物をねだる歌でありながら、恋の言葉づかいで通している点が眼目である。

良少将——良岑の姓を持つ少将。
太刀——刀。ここはそれを腰に結ぶための革が必要だった。
あだ人——誠意のない人。あてにならない人。
頼む(下二段動詞)——期待させる。あてにさせる。
わたる(四段動詞)——ずっと〜し続ける。動作の継続を表す。
そめかは——染めた革。「染川」の音を響かせる。
色の深さ——染めの濃さ。また、情の深さ。
で——〜しないで。打消の接続。
やむ(四段動詞)——終わる。それきりになる。
出典
大和物語
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