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色ぞとは思ほえずともこの花は
時につけつつ思ひ出でなむ

歌の意味
美しい色だとは思われなくても、この花を、折にふれてご覧になって私を思い出してほしい。
鑑賞
34 この花

 右京の大夫のもとに、ある女が贈った歌である。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
 右京の大夫は源宗于。光孝天皇の孫にあたり、三十六歌仙の一人に数えられる歌人である。三十段から三十二段まで続けて登場し、三十一段では監の命婦に歌を贈っている。贈り主の女については、地の文に記載がない。
 場面の時期や場所は明示されない。歌に花が詠まれていることと、その花を添えて贈ったと読めることから、花の咲く季節のことと知れる。
 詠出の直接の契機は地の文に記されない。示されているのは、女から宗于のもとへ歌が贈られたということだけである。
 段はこの一首で終わり、宗于の返しは語られない。

 「色ぞとは思ほえずとも」は、美しい色だとは思われなくても、の意である。「とも」の仮定の逆接が、そうであっても、と下へつなぐ。贈る花をまず自分から低く言っておく形になる。
 「この花は」で、その花を歌の中心に据える。花を添えて贈ったことが、この一語から知れる。
 「時につけつつ」は、折にふれて、その時々に、の意である。「つつ」が繰り返しを示し、一度きりでなく思い出してほしいという願いになる。
 結句の「思ひ出でなむ」の「なむ」は他に対する願望で、思い出してほしい、と願う。自分ではなく花を差し出し、花を見るたびに自分を思い出せという頼み方をしている。贈り物と歌が一つに働く形は、三段の柳の枝や十七段の尾花と同じである。

右京の大夫(かみ)——右京職の長官。
色——花や衣の色。美しさ。
思ほゆ(下二段動詞)——自然と思われる。感じられる。
とも——たとえ〜としても。仮定の逆接。
時につけつつ——折にふれて。その時々に。
つつ——〜しては。繰り返しを表す。
なむ——〜てほしい。他に対する願望を表す。
出典
大和物語
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