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いひつつも世ははかなきをかたみには
あはれといかで君に見えまし

歌の意味
こうして語り合っていても世ははかないのだから、互いにしみじみと思う心を、どうやってあなたに見せることができるだろう。
鑑賞
41 世ははかなきを

 源大納言のもとに、としこは常に参上していた。局を設けて住むこともあった。趣深い人で、大納言とはあらゆることを語り合う仲だった。することもないような日には、この大納言と、としこと、としこの娘のうち姉にあたるあやつこという人、それから大納言のもとにいたよぶこという人、この四人が集まっていた。あやつこは母に似て趣深い人であり、よぶこもしみじみとした情の分かる、たいそう趣深い人であった。四人があらゆることを話し合い、世の中のはかないことや、世間のしみじみとした話を言い合っていたとき、大納言が詠まれたのがこの歌である。これを詠むと、誰も彼も返歌ができなくなって、近くに寄り添って声を上げて泣いたのだった。世にもまれな人たちであった、と地の文は結ぶ。
 源大納言は源清蔭。陽成天皇の皇子で、三段では亭子院の御賀の捧げ物をとしこに任せ、十一段では東の方と歌をやりとりしている。としこは右馬允藤原千兼の妻で、三段や九段にも登場し、十三段ではその死が語られる。あやつこはその娘、よぶこは大納言のもとにいた人である。
 場面は源大納言の屋敷である。することもない日に、気心の知れた四人が集まっている。
 詠出の直接の契機は、世のはかなさをめぐる四人の語らいである。話の流れがそのまま歌になった形になっている。
 歌のあと、誰も返歌ができず、皆で寄り添って泣いた。段はその場の様子と、まれな人たちであったという評で閉じられる。この歌は新勅撰集に収められている。

 「いひつつも」は、こうして言い合ってはいても、の意である。四人で語り合っているその最中であることを、初句がそのまま指している。
 「世ははかなきを」で、語り合っている当のはかなさを述べる。「を」は逆接で、はかないのだから、と下へつなぐ。
 「かたみには」は、互いに、の意である。今こうして分かり合っている心を、相手に見せる手立てがない、という筋になる。
 結句の「いかで君に見えまし」は、どうやって見せられようか、という反語である。心が通っていることを喜ぶのではなく、その通い合いを形に残せないことを嘆いている。集まっていた者たちが返歌もできずに泣いたというのは、その嘆きが場の全員に当てはまったからである。

源大納言——源清蔭のこと。
局(つぼね)——邸内に与えられた部屋。
としこ——藤原千兼の妻。大和物語にたびたび登場する。
あやつこ——としこの娘。姉にあたる方。
よぶこ——源大納言のもとにいた人。
いひつつも——言い合ってはいても。
かたみに(副詞)——互いに。
いかで〜まし——どうやって〜できようか。反語を表す。
あはれ——しみじみと心に深く感じること。
出典
大和物語
その他の歌