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のがるとも誰か着ざらむぬれ衣
あめの下にし住まむかぎりは

歌の意味
逃れたとしても、誰が濡れ衣を着ずにいられよう。雨の下に住んでいるかぎりは。
鑑賞
44 ぬれ衣

 そのゑしう法師に、ある人が、比叡山にのぼる日はいつごろかと尋ねたところ、「のぼりゆく山の雲居の遠ければ日もちかくなるものにぞありける」と答えた。また、先に述べたような、自らの身にとってよくないことが、修行の途中に重なってしまったので、「のがるとも誰か着ざらむぬれ衣あめの下にし住まむかぎりは」と詠んだ。以上が段の全体である。
 ゑしうは四十二段と四十三段に続いて登場する法師である。四十二段では女に仕えて噂が立ち、四十三段では削りくずに歌を書きつけて山へ入っている。尋ねた人については、地の文に記載がない。
 場面は同じく修行の途上である。四十二段で立った噂が、修行の最中にまで及んできた形になっている。
 詠出の直接の契機は、身の上によくないことが重なったことである。
 段はこの二首で閉じられる。四十二段から四十四段まで、同じ法師をめぐる話が三段続く構成になっている。

 「のがるとも」は、逃れたとしても、の意である。俗世を逃れて山に入ったことを指す。「とも」の仮定の逆接が、それでも、と下へつなぐ。
 「ぬれ衣」は、雨に濡れた衣であると同時に、身に覚えのない罪、無実の噂を意味する語である。この一語に歌の要がある。
 「あめの下」の「あめ」に、天と雨とが掛かる。天の下すなわちこの世に住むかぎり、という意と、雨の下にいるかぎり、という意とが重なる。
 結句の「住まむかぎりは」は、住んでいるかぎりは、と条件を示して結ぶ。雨の下にいれば衣が濡れるのは当たり前だという理屈を、この世にいれば濡れ衣を着せられるのも当たり前だ、という言い分に転じている。噂を否定するのではなく、避けられないものとして受け止めた一首である。

のがる(下二段動詞)——逃れる。避ける。
とも——たとえ〜としても。仮定の逆接。
ぬれ衣——雨に濡れた衣。また、身に覚えのない罪、無実の噂。
あめ——「天」と「雨」との掛詞。
し——強めを表す副助詞。
かぎり——〜あいだは。〜のうちは。
出典
大和物語
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