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大空をわたる春日の影なれや
よそにのみしてのどけかるらむ

歌の意味
大空をわたる春の日の光だからだろうか。よそにばかりいて、のどかにしているようだ。
鑑賞
48 春日の影

 前の帝の御時に、刑部の君と呼ばれていた更衣が、里に下がったまま長らく参上しないので、帝が遣わした歌である。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
 刑部の君は更衣であった女性で、刑部にちなむ呼び名を持つ。更衣は女御より下の、帝に仕える女性の位である。前の帝については、先代の帝という呼称のほか、地の文に記載がない。
 場面は、更衣が里に下がったまま宮中に戻らずにいる時期である。歌に春の日が詠まれていることから、春のことと知れる。
 詠出の直接の契機は、その長い不参である。歌は里にいる更衣のもとへ遣わされた。
 段はこの一首で終わり、更衣の返しは語られない。この歌は新古今集に収められている。

 「大空をわたる春日の影」は、大空を渡っていく春の日の光のことである。「影」は光の意で、日や月の光をいう。
 「なれや」は、〜だからだろうか、という疑問である。相手を春の日の光になぞらえ、その理由を問う形をとる。
 「よそにのみして」は、よそにばかりいて、の意である。「のみ」の限定が、こちらには来ないことを示す。
 結句の「のどけかるらむ」は、のどかにしているのだろう、という推量である。春の日はのどかに空を渡るもので、その悠々とした様子を、里にとどまって戻らない相手に重ねている。帝が更衣を召す歌でありながら、命じる言葉は使わず、相手を光にたとえて問う形にとどめている。

前の帝——先代の帝。
刑部の君(ぎゃうぶのきみ)——刑部にちなむ呼び名を持つ女性。
更衣(かうい)——帝に仕える女性の位。女御より下。
里(さと)——実家。宮仕えの者が退出して帰る家。
まゐる(四段動詞)——参上する。宮中へ出仕する。
影(かげ)——光。日や月の光をいう。
なれや——〜だからだろうか。
のどけし——のどかである。ゆったりしている。
らむ——〜しているのだろう。現在の推量。
出典
大和物語
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