秋の野をわくらむ鹿もわがごとや
しげきさはりに音をばなくらむ
- 歌の意味
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秋の野を分け入っていく鹿も、私と同じように、茂った障りに阻まれて声を上げて鳴いているのだろうか。
- 鑑賞
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53 しげきさはり
陽成院に仕えていた坂上遠道という男が、同じく院に仕えていた女に思いを寄せていたが、女が差し支えることがあるからといって逢ってくれなかったので、この歌を詠んだ。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
坂上遠道は陽成院に仕えていた男である。陽成院は退位後の陽成天皇をいい、十四段と十五段にも登場する。相手の女についても、同じく院に仕えていたという以外、地の文に記載がない。
場面の時期は秋である。歌に秋の野が詠まれていることから知れる。
詠出の直接の契機は、女が差し支えがあるといって逢ってくれなかったことである。
段はこの一首で終わり、女の返しも後日のことも語られない。なお本によっては「鹿」を「虫」とするものがある。
「秋の野をわくらむ鹿」は、秋の野を分け入っていく鹿のことである。「わく」は草木を分けて進む意で、その行く手に草が茂っている情景になる。
「わがごとや」は、私と同じように、の意である。鹿の姿に自分を重ねる形をとる。
「しげきさはり」は、茂った障害物のことである。野の草が茂って行く手を阻むことと、女に逢うことを妨げる差し支えとが、この一語で重なる。女が言った差し支えを、そのまま歌の中へ取り込んでいる。
結句の「音をばなくらむ」は、声を上げて鳴いているのだろう、という推量である。秋の鹿は妻を求めて鳴くものとされ、その声が古来歌に詠まれてきた。自分の嘆きを直接には言わず、鹿がそうしているのだろうかと問う形にとどめている。
陽成院——退位後の陽成天皇。
さぶらふ(四段動詞)——お仕えする。伺候する。
わく(下二段動詞)——草木を分けて進む。
ごと——〜のように。〜と同じく。
しげし——草木が茂っている。
さはり——妨げ。差し支え。
音(ね)をなく——声を上げて泣く。鳴く。
らむ——〜しているのだろう。現在の推量。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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