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夕さればみちも見えねどふるさとは
もと来し駒にまかせてぞゆく

歌の意味
夕方になって道も見えないけれど、通い慣れたあなたの家へは、以前から通っていた馬にまかせて行くのだ。
鑑賞
56 もと来し駒

 越前の権守平兼盛が、兵衛の君という人のもとに通っていたころ、長らく離れていて、また行ったときに「夕さればみちも見えねどふるさとはもと来し駒にまかせてぞゆく」と詠んだ。女の返しに「駒にこそまかせたりけれはかなくも心の来ると思ひけるかな」とあった。以上が段の全体である。
 平兼盛は越前の権守を務めた歌人で、三十六歌仙の一人に数えられる。権守は定員外に置かれた守である。続く五十七段と五十八段にも登場する。兵衛の君については、兵衛にちなむ呼び名を持つ女性という以外、地の文に記載がない。
 場面は、長く途絶えていた通いが再び始まった日の夕方である。
 詠出の直接の契機は、久しぶりにその家を訪れたことである。
 兵衛の君はこれに返しを詠み、贈答をもって段は閉じられる。この歌は後撰集に収められている。

 「夕さればみちも見えねど」は、夕方になって道も見えないけれど、の意である。「ねど」の逆接が、それでも、と下へつなぐ。
 「ふるさと」は、以前から通い慣れた場所をいう。ここでは相手の家を指す。
 「もと来し駒にまかせてぞゆく」は、以前通っていた馬にまかせて行く、の意である。道が見えなくても馬が覚えているから行ける、という筋になる。長く来なかったことを詫びるかわりに、馬さえ覚えているほど通い慣れた仲だと言っていることになる。
 「ぞ」の係りが「ゆく」で結ばれ、そうやって行くのだ、と押さえる。久しぶりの訪れを、慣れ親しんだ道として述べる言い方だが、それが次の返歌で突かれる。

越前の権守(ごんのかみ)——定員外に置かれた越前国の守。
夕さる(四段動詞)——夕方になる。
ふるさと——以前から通い慣れた場所。ここでは相手の家。
もと——以前。もともと。
駒(こま)——馬。
まかす(下二段動詞)——まかせる。ゆだねる。
ねど——〜ないけれども。打消の逆接。
ぞ〜ゆく——係り結び。強調を表す。
出典
大和物語
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