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駒にこそまかせたりけれはかなくも
心の来ると思ひけるかな

歌の意味
馬にまかせて来ただけだったのね。はかなくも、あなたの心が来たのだと思っていたことだ。
鑑賞
56 もと来し駒

 越前の権守平兼盛が、兵衛の君という人のもとに通っていたころ、長らく離れていて、また行ったときに「夕さればみちも見えねどふるさとはもと来し駒にまかせてぞゆく」と詠んだ。女の返しに「駒にこそまかせたりけれはかなくも心の来ると思ひけるかな」とあった。以上が段の全体である。
 平兼盛は越前の権守を務めた歌人で、三十六歌仙の一人に数えられる。権守は定員外に置かれた守である。続く五十七段と五十八段にも登場する。兵衛の君については、兵衛にちなむ呼び名を持つ女性という以外、地の文に記載がない。
 場面は同じ夜、兼盛から歌が届いたあとである。
 詠出の直接の契機は、兼盛から届いた「夕さればみちも見えねどふるさとはもと来し駒にまかせてぞゆく」である。馬にまかせて来たという言い分に応じている。
 この返歌をもって五十六段は閉じられる。地の文には歌の評もなく、贈答二首だけで段が成り立っている。この歌は後撰集に収められている。

 「駒にこそまかせたりけれ」は、馬にまかせただけだったのね、の意である。「こそ〜けれ」の係り結びが、まかせたのは馬にであって心にではない、という限定を作る。
 相手が自分から持ち出した「駒にまかせて」を、そのまま弱点として突き返している。馬が来たのであって、あなたが来たのではない、という理屈になる。
 「はかなくも」は、浅はかにも、の意である。自分の思い違いを自分から述べる形をとる。
 結句の「心の来ると思ひけるかな」は、心が来たのだと思っていたことだ、という詠嘆である。相手を責めるのではなく、自分が勘違いしていたと言うことで、かえって相手の言い分の軽さを浮かび上がらせている。贈られた歌の語を借りて意味をずらす型で、この作品の贈答歌に繰り返し見られる。

駒(こま)——馬。
まかす(下二段動詞)——まかせる。ゆだねる。
こそ〜けれ——係り結び。強い限定を表す。
はかなし——浅はかである。頼りない。
心の来る——気持ちが向いて来る。
けるかな——〜ていたことだなあ。詠嘆を表す。
出典
大和物語
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