よひよひに恋しさまさる狩ごろも
心づくしのものにぞありける
- 歌の意味
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夜ごとに恋しさがまさるこの狩衣は、心を尽くさせるものであった。
- 鑑賞
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69 狩ごろも
藤原忠文が陸奥の国に征夷大将軍として任じられ、向かったときのこと。その子にあたる人と監の命婦とがひそかに愛を交わしていた。東国へ向かう餞別に、めとり括りの布で作った狩衣、うちき、幣などを贈ったところ、贈られた男から詠んで寄こしたのがこの歌である。女は歌に心引かれて泣いたのだった。
藤原忠文は征夷大将軍に任じられた人である。詠み手はその子にあたる。監の命婦は大和物語に繰り返し登場する女房で、八段では中務の宮と、十段では旧居の前で、二十一段と二十二段では良少将と歌をやりとりしている。
場面は東国へ下る出立の前である。餞別として狩衣などが贈られている。
詠出の直接の契機は、その餞別を受け取ったことである。歌は監の命婦のもとへ寄こされた。
女はこの歌に心引かれて泣いた。段はその一文で閉じられる。続く七十段では、この下向のその後が語られる。
「よひよひに」は、夜ごとに、毎晩、の意である。同じ語を重ねて、繰り返しを表す。
「恋しさまさる狩ごろも」は、恋しさがまさっていく狩衣、の意である。着るたびに贈り主が思われる、という筋になる。
「心づくし」は、心を尽くすこと、また、心を尽くさせるほどに物思いをさせることをいう。贈り主が心を尽くして作ったものであると同時に、受け取った側の心を尽きさせるもの、という両方に働く。
結句の「ものにぞありける」は「ぞ」の係りが「ける」で結ばれる形で、そういうものであった、という気づきを示す。餞別の礼を述べる歌でありながら、その品が離れがたさを募らせるものだと言っていることになる。女が泣いたのは、その言い方によるものと読める。
征夷大将軍——蝦夷征討のために任じられる将軍。
陸奥(みちのく)の国——現在の東北地方東部にあたる。
めとり括り——布の染め方の一種。
狩衣(かりぎぬ)——公家の男性の普段着。
うちき——狩衣などの下に着る衣。
幣(ぬさ)——神に捧げる、棒に布などを垂らしたもの。
よひよひ——夜ごと。毎晩。
心づくし——心を尽くすこと。また、物思いをさせること。
ぞ〜ける——係り結び。強調を表す。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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