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竹取がよよに泣きつつとどめけむ
君は君にと今宵しもゆく

歌の意味
竹取の翁が夜ごとに泣きながら引き留めたという姫君は、大君のもとへと、今宵にかぎって行ってしまうのか。
鑑賞
77 今宵しもゆく

 これも桂の皇女に源嘉種が「ながき夜をあかしの浦に焼く塩のけぶりは空に立ちやのぼらぬ」と詠んだ。このようにしてひそかに逢っているころ、桂の皇女は院の十五夜の宴にいらっしゃいと呼ばれたので、参上しようというときに、それでは逢うこともできなくなるので、源嘉種はせめて今宵は行かないでほしいと留めた。けれども院のお呼びなので留まることはできず、桂の皇女は急いで出向いてしまったので、源嘉種が「竹取がよよに泣きつつとどめけむ君は君にと今宵しもゆく」と詠んだ。以上が段の全体である。
 桂の皇女は桂に住まわれた皇女で、二十段と二十六段に歌が見え、前の七十六段にも登場する。源嘉種はその皇女のもとへ通っていた人で、七十六段では門前で一夜を明かしている。院は譲位した後の帝の御所をいう。
 場面は十五夜である。桂の皇女は院の宴に呼ばれ、嘉種はせめて今宵は行かないでほしいと引き留めた。だが院のお呼びであるため皇女は留まることができず、急いで出向いてしまった。
 詠出の直接の契機は、その引き留めが果たせなかったことである。
 段はこの一首で閉じられる。前の歌が忍び逢いの日々を詠んだのに対し、この歌はその終わりの場面にあたる。

 「竹取が」は竹取物語の翁を指す。十五夜に月へ帰るかぐや姫を、翁が泣きながら引き留めた話を踏まえている。
 「よよに泣きつつ」の「よよ」に、夜ごとにという意と、よよと泣く声とが響く。翁の泣きようと、夜が重なる日々とが、この一語に収まる。
 「君は君にと」は、姫君は大君のもとへと、の意である。同じ「君」の字を重ねて、去っていく人と、その行き先とを並べている。竹取物語では帝が姫を求めており、院に呼ばれた皇女がそこに重ねられる。
 結句の「今宵しもゆく」の「しも」は強めの助詞で、今宵にかぎって、と限定する。物語では姫は天へ昇るが、この歌では皇女が院へ向かう。留めようとして留められなかった者の立場が、翁のそれと重ねられている。

竹取(たけとり)——竹取物語の翁。かぐや姫を育てた人。
よよ——「夜々」と、泣く声の「よよ」とを響かせる。
とどむ(下二段動詞)——引き留める。
けむ——〜たという。過去の伝聞
推量。
君(きみ)——姫君。また、貴人。
今宵(こよひ)——今夜。
しも——強めを表す副助詞。
十五夜——陰暦十五日の夜。満月の夜。
出典
大和物語
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