浪の立つかたも知らねどわたつみの
うらやましくもおもほゆるかな
- 歌の意味
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波の立つ方角も知らないけれど、海のように、うらやましく思われることだ。
- 鑑賞
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96 うらやましくも
九十四段のいきさつを経て、九の君は侍従の君と結婚することになった。そのころ、九十五段にあるように三条の御息所のところに式部卿の宮が来られなくなってしまったので、左大臣である藤原実頼が、まだ右衛門督だったころ、三条の御息所に差し上げた歌である。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
藤原実頼は太政大臣藤原忠平の子で、のちに左大臣に至った。九十四段に登場する藤原師尹は異母弟にあたる。侍従の君はその師尹を指す。三条の御息所は藤原定方の娘で、九十四段と九十五段にも登場する。右衛門督は右衛門府の長官である。
場面は、九の君が侍従の君と結ばれたころである。同じ時期に、三条の御息所は式部卿の宮に通ってこられなくなっている。
詠出の直接の契機は、その侍従の君が婿に選ばれたと聞いたことである。歌は三条の御息所のもとへ差し上げられた。
段はこの一首で終わり、御息所の返しも後日のことも語られない。百二十段では三条の御息所と実頼のことが語られる。
「浪の立つかた」の「かた」は方角の意で、波の立つ方向を言う。同時に、人の心の向かう先という含みを帯びる。
「知らねど」の逆接が、分からないけれども、と下へつなぐ。相手の心がどこへ向いているか分からない、という前置きになる。
「わたつみの」は海をいう語で、次の「うらやまし」を導く。「うら」に、海の浦と、心の内をいう「うら」とが響く。
結句の「うらやましくもおもほゆるかな」は詠嘆で終わる。弟が九の君と結ばれたことをうらやみ、同時に、宮に去られた御息所へ思いを寄せる形になっている。海の語で一貫させながら、自分の思いを打ち明ける一首で、百二十段へつながる話の始まりにあたる。
九の君——九番目の姫君。
侍従(じじゅう)の君——藤原師尹のこと。
右衛門督(うゑもんのかみ)——右衛門府の長官。
式部卿の宮——式部省の長官を務める親王。
浪(なみ)——波。
かた——方角。方向。
わたつみ——海。「うら」を導く。
うらやまし——うらやましい。「浦」の音を響かせる。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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