ゆく人はそのかみ来むといふものを
心細しや今日の別れは
- 歌の意味
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旅立つ人は、そのうち帰って来ようと言うものなのに。心細いことだ、今日の別れは。
- 鑑賞
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102 今日の別れ
土佐の守であった酒井人真という人が、病気で弱って鳥羽にある家に行くときに詠んだ歌である。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
酒井人真は土佐の守を務めた人で、古今集に歌が採られている。土佐の守は土佐国の国司の長官である。鳥羽は京の南にある地である。
場面は、病が重くなって鳥羽の家へ移るときである。都を離れる別れにあたる。
詠出の直接の契機は、その移動そのものである。病を得たまま都を出るという場面が歌を生んでいる。
段はこの一首で終わり、聞き手の反応も後日のことも語られない。前の百一段が病に伏した季縄の別れの歌であり、この段も同じく病者の別れの歌を置いた配置になっている。
「ゆく人はそのかみ来むといふものを」は、旅立つ人はそのうち帰って来ようと言うものなのに、の意である。「そのかみ」は、そのうち、やがて、の意である。「ものを」が詠嘆を含む逆接で、それなのに、と下へつなぐ。
旅立つ者が言うべき決まり文句を、まず一般論として置く。そのうえで、自分にはそれが言えないことを、言わずに示す形になる。
「心細しや」は、心細いことだ、という詠嘆である。「や」が感動を表す。
結句の「今日の別れは」は体言止めで、その日の別れを名指したまま終わる。病が重く、帰れるかどうか分からないという事情を一言も述べず、決まり文句が言えないという一点だけで表している。
土佐の守(かみ)——土佐国の国司の長官。
鳥羽(とば)——京の南にある地名。
ゆく人——旅立つ人。去る人。
そのかみ——そのうち。やがて。
ものを——〜であるのに。詠嘆を含む逆接。
心細し——心細い。頼りない。
や——〜ことだなあ。詠嘆を表す。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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