あふことの願ふばかりになりぬれば
ただにかへしし時ぞ恋しき
- 歌の意味
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逢うことをただ祈るばかりになってしまったので、何もせずにそのまま帰した、あのころが恋しい。
- 鑑賞
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107 願ふばかりに
同じ兵部卿の宮に、別の女が贈った歌である。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
兵部卿の宮は兵部省の長官を務めた親王で、前の百六段では平中興の娘と十首の贈答を交わしている。この段の女については、別の女という以外、地の文に記載がない。
場面の時期や場所は明示されない。示されているのは、同じ宮に別の女が歌を贈ったということだけである。
詠出の直接の契機は地の文に記されない。
段はこの一首で終わり、宮の返しも後日のことも語られない。百六段が一人の女との長い応酬であったのに続き、この段は別の女の歌一首を置いた配置になっている。
「あふことの願ふばかりになりぬれば」は、逢うことをただ祈るばかりになってしまったので、の意である。「ばかり」の限定が、それ以外に手立てのないことを示す。
「なりぬれば」は、そうなってしまったので、と理由を示す。今の状態が先に置かれ、そこから過去へ振り返る形になる。
「ただにかへしし時」は、何もせずにそのまま帰した時、の意である。訪ねてきた相手を受け入れずに帰した、かつての自分の振る舞いを指す。
結句の「ぞ恋しき」は「ぞ」の係りが「恋しき」で結ばれる形である。かつては断ることができたのに、今は祈るほかない、という落差を述べている。相手を恨むのではなく、自分の立場の変わりようを述べた一首である。
兵部卿の宮——兵部省の長官を務める親王。
あふこと——逢うこと。
願ふ(四段動詞)——願う。祈る。
ばかり——〜だけ。限定を表す。
ただに(副詞)——そのまま。何もせずに。
かへす(四段動詞)——帰す。返す。
ぞ〜き——係り結び。強調を表す。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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