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ちぢの音は言葉の吹きか笛竹の
こちくの声も聞えこなくに

歌の意味
さまざまな音は、言葉を吹き鳴らしているだけなのか。笛竹のこちくの声さえ聞こえてこないのに。
鑑賞
121 笛竹

 さねとうの少弐と呼ばれた人の娘のもとに通っていた男が「笛竹のひと夜も君と寝ぬ時はちぐさの声に音こそ泣かるれ」と詠めば、女の返しに「ちぢの音は言葉の吹きか笛竹のこちくの声も聞えこなくに」とあった。以上が段の全体である。
 さねとうの少弐については、地の文に呼び名のほかの記載がない。少弐は大宰府の次官である。娘のもとに通っていた男についても、地の文に記載がない。
 場面は同じく、男から歌が届けられたところである。
 詠出の直接の契機は、男から届いた「笛竹のひと夜も君と寝ぬ時はちぐさの声に音こそ泣かるれ」である。さまざまな声で泣くという歌に応じている。
 この返歌をもって百二十一段は閉じられる。地の文には歌の評もなく、贈答二首だけで段が成り立っている。

 「ちぢの音」は、相手の言った「ちぐさの声」を受け直したものである。さまざまな音、の意になる。
 「言葉の吹きか」は、言葉を吹き鳴らしているだけか、の意である。「吹き」が笛の縁語として働き、口先だけの言葉を、笛を吹くことにたとえている。
 「こちく」は笛の名で、その音に「こち来」すなわちこちらへ来る、という意が響く。名高い笛の名を借りて、来ないことを言う形になる。
 結句の「聞えこなくに」は、聞こえてこないのに、の意である。「なくに」が詠嘆を含む逆接で言いさす。泣いていると言うが、来るという声は聞こえない、という筋である。相手の使った笛の縁語をそのまま用いて意味を返す型で、この作品の贈答歌に繰り返し見られる。

ちぢの音——さまざまな音。
言葉(ことば)——言葉。
吹く(四段動詞)——笛を吹く。また、大げさに言う。
笛竹(ふえたけ)——笛に作る竹。
こちく——笛の名。「こち来」の音を響かせる。
聞ゆ(下二段動詞)——聞こえる。
なくに——〜ないのに。詠嘆を含む逆接。
出典
大和物語
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