人を待つ宿は暗くぞなりにける
契りし月のうちに見えねば
- 歌の意味
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人を待つこの家は暗くなってしまった。約束した月のうちに、あなたが現れないので。
- 鑑賞
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129 宿は暗く
その檜垣の御かどうかは分からないが、筑紫にいた女が京の男に詠んで贈った歌である。地の文はこれだけで、段はこの一首をもって閉じられる。
詠み手について地の文は、檜垣の御かどうかは分からないと断り、筑紫にいた女とのみ記す。檜垣の御は百二十六段から百二十八段に登場する。相手の男についても、京の男という以外、地の文に記載がない。
場面は筑紫である。約束の月が過ぎようとしている時期にあたる。
詠出の直接の契機は、約束した月のうちに相手が現れなかったことである。歌は京の男のもとへ贈られた。
段はこの一首で終わり、男の返しも後日のことも語られない。この歌は新後拾遺集に、監の命婦の歌として収められている。
「人を待つ宿」は、人を待つ家、の意である。待つ側の家が、そのまま歌の主語になる。
「暗くぞなりにける」は、暗くなってしまった、の意である。「ぞ」の係りが「ける」で結ばれる。人を待つ家に灯がないのは、来ないからである。
「契りし月のうちに」の「月」に、暦の月と、空の月とが掛かる。約束した月のうちに、と、月の光の中に、とが重なる。
結句の「見えねば」は、見えないので、と理由を示して結ぶ。月が出ないから家が暗い、という表の筋と、約束の月が過ぎても来ないから家が暗い、という裏の筋とが、同じ一語で成り立っている。待つ嘆きを、家の明るさという一点に絞って述べた一首である。
筑紫(つくし)——九州の古称。
檜垣(ひがき)の御——筑紫に住んでいた遊女。
宿(やど)——住まい。家。
暗し——暗い。
契る(四段動詞)——約束する。
月(つき)——「暦の月」と「空の月」との掛詞。
見ゆ(下二段動詞)——見える。姿を現す。
ぞ〜ける——係り結び。強調を表す。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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