焚きもののくゆる心はありしかど
ひとりはたえて寝られざりけり
- 歌の意味
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焚きもののように燻る、悔いる心はあったけれど、ひとりではまるで寝られないのだった。
- 鑑賞
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135 くゆる心
三条の右大臣の娘が堤の中納言と逢い始めたころは、男は内蔵寮の助の役職にあって宮中に通っていた。女の方はまた逢おうという気持ちになれなかったのだろうか、彼に心を掛けるようにも見えなかった。男もまた宮中に仕えていたので、常には女のもとには居られなかったころ、けれども女の方からこの歌を贈った。兼輔は歌の巧みな人であるから優れた返歌があっただろうけれど、それは知らないのでここには書かない、と地の文は結ぶ。
三条の右大臣は藤原定方で、二十九段、七十一段、九十一段に登場する。詠み手はその娘である。堤の中納言は藤原兼輔で、三十五段、三十六段、四十五段、七十一段から七十五段に登場し、三十六歌仙の一人に数えられる。内蔵寮の助は内蔵寮の次官である。
場面は、二人が逢い始めたころである。男は宮仕えのために常には通えず、女も心を掛ける様子がなかった。
詠出の直接の契機は地の文に記されない。示されているのは、女の方から贈ったということだけである。
兼輔の返歌は知られていないと地の文は記す。段はその一文で閉じられる。この歌は新拾遺集に収められている。
「焚きもの」は香を焚くための練り香である。「くゆる」を導く働きをしている。
「くゆる心」の「くゆ」に、香が燻ることと、悔いることの「悔ゆ」とが掛かる。煙が細く立つさまと、心に残る後悔とが、この一語で重なる。
「ありしかど」の逆接が、あったけれども、と下へつなぐ。心を掛ける様子がなかったという地の文が、この「くゆる心」に対応している。
結句の「ひとりはたえて寝られざりけり」は、ひとりではまるで寝られなかった、の意である。「たえて」は打消と呼応して、まったく、の意になる。「られ」は可能である。香を焚くのは寝所でのことであり、香と寝ることとが場面としても結びついている。冷淡に見えた側から、ひとりでは眠れないと打ち明けた一首である。
三条の右大臣——藤原定方のこと。
堤の中納言——藤原兼輔のこと。
内蔵寮(くられう)の助(すけ)——内蔵寮の次官。
焚きもの——香を焚くための練り香。
くゆ——「燻ゆ」と「悔ゆ」との掛詞。
しかど——〜たけれども。逆接を表す。
たえて(副詞)——まったく。下の打消と呼応する。
らる——可能を表す助動詞。
- 出典
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大和物語
- その他の歌
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