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かくれ沼の底のした草み隠れて
知られぬ恋はくるしかりけり

歌の意味
隠れ沼の底の下草が身を隠すように、人に知られない恋は苦しいものだった。
鑑賞
138 した草

 こやくしくそと呼ばれる男が、女のもとに通って、その後送ってきた「かくれ沼の底のした草み隠れて知られぬ恋はくるしかりけり」。すると女の返しに「み隠れに隠るばかりのした草は長からじとも思ほゆるかな」とあった。このこやくしという人は、背丈がとても低かったという。以上が段の全体である。
 こやくしくそについては、地の文に呼び名のほかの記載がなく、背丈がとても低かったとのみ記される。相手の女についても記載がない。
 場面は、こやくしくそが女のもとへ通ったのちである。
 詠出の直接の契機は地の文に記されない。示されているのは、通ったあとに送ってきた歌である、ということだけである。
 女はこれに返しを詠み、贈答をもって段は閉じられる。この歌は新千載集に、枇杷左大臣の歌として収められている。

 「かくれ沼」は、草に覆われて水面の見えない沼である。「かくる」を導く働きをしている。
 「底のした草」は、その沼の底に生える水草である。上に草があり、水があり、さらにその底の草という三重に隠れた位置に置かれている。
 「み隠れて」は、身を隠して、の意である。ここまでが序詞として働き、次の「知られぬ恋」を導く。
 結句の「知られぬ恋はくるしかりけり」は、人に知られない恋は苦しかった、という気づきである。忍ぶ恋のつらさを述べる歌として、表向きは整っている。ただし次の返歌が、この「した草」の丈の短さを別の意味に取ることになる。百十三段の「あふことのなみの下草」も同じく水草を用いた歌で、そちらは女の側から詠まれている。

かくれ沼(ぬ)——草に覆われて水面の見えない沼。
底(そこ)——水の底。
した草——水の下に生える草。
み隠る(下二段動詞)——身を隠す。
知らる——人に知られる。「る」は受身。
くるし——苦しい。つらい。
けり——〜であったのだなあ。気づきを表す。
出典
大和物語
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